中国の半導体メーカーが成熟ノード(レガシーチップ)の生産能力を急速に拡大し、製品価格を大幅に引き下げることで世界市場に大きな影響を与えている。2025年末には世界の成熟ノード生産の28%を占める見込みで、西側企業は収益性の維持と生き残りに苦戦。この現象は業界内で”チャイナショック”と呼ばれる事態に発展している。
市場シェアと価格破壊の実態
中国のファブ(半導体製造施設)は2025年第4四半期までに、世界の成熟チップ生産の28%を支配する見通しだ。さらに2027年までには39%に拡大するという予測もある。主に16/20/22/24nm以上の成熟プロセスノードと呼ばれる半導体は、消費者向け電子機器や自動車用途に広く使用されており、最先端以外のチップメーカーにとって収益の柱となっている。
この市場シェア拡大の背景には、中国メーカーによる大幅な価格引き下げがある。最も顕著な例は特殊材料であるシリコンカーバイド(SiC)ウェハーの価格だ。あるドイツのチップメーカーのセールスディレクターによると、「わずか2年前には、世界的リーダーであるWolfspeedの主流6インチSiCウェーハは1,500ドルだった」という。しかし現在、広州Summit Crystal Semiconductorなどの中国メーカーは同じ6インチウェーハを500ドルで販売している。これは67%もの価格下落であり、西側のメーカーが利益を出しながら対抗することはほぼ不可能な水準である。
西側企業への深刻な影響
この価格破壊の影響は、すでに西側企業の財務状況に表れている。かつてシリコンウェハー生産のリーダーだったWolfspeedは、わずか3年間で株式価値が96%下落するという深刻な打撃を受けている。同社は対応策として従業員の20%削減を実施せざるを得なかった。
同様に、アリゾナを拠点とするレガシー半導体企業Onsemiも、従業員の9%に影響する人員削減を発表した。これらの企業だけでなく、複数の半導体企業がこの価格圧力から大きな財務的圧迫を報告している。
ドイツのチップメーカーのセールスディレクターは、この状況を「血なまぐさいノックアウトマッチ」と表現し、「中国のプレーヤーも外国のプレーヤーも多くが傷ついており、最終的には多くが退出せざるを得なくなるだろう」と厳しい見方を示している。
戦略的背景と中国政府の支援
中国の成熟ノード半導体産業の急成長は、米国の先端半導体装置に対する輸出規制が直接的な引き金となっている。米国の制裁により先端プロセスノードへのアクセスが制限された中国は、戦略的に成熟ノードへの投資にシフトした。これは技術的障壁が比較的低く、国内需要も堅調な分野である。
この動きを支えているのが、国と地方レベルの政府による強力な投資だ。中国の半導体産業を支援する「ビッグファンド」は、これまでの3ラウンドで6,880億元(約14兆1,450億円)を調達している。さらに地方政府も地域のチャンピオン企業に積極的に投資している。
この政府支援と国内需要を背景に、中国全土で数十の新しいプレーヤーが誕生している。これが西側企業にとって競争相手の急増につながっている。同時に、SIMCのような企業は輸出規制下でも、最先端の5nmや3nmウェハー生産のためのリソグラフィーソリューションを開発する動きも見せている。
供給過剰リスクと業界の未来
急速に市場シェアを拡大する中国だが、そこには供給過剰のリスクも潜んでいる。IDCのアナリスト、Galen Zeng氏は「いくつかのタイプの成熟チップにはすでに供給過剰があり、中国の経済はまだ完全に回復していない」と指摘する。「中国のプレーヤーは、中国のローカライゼーション推進に後押しされ、今後数年間でグローバルな同業他社よりも積極的に生産を拡大すると予想している」と述べている。
市場シェアの拡大を目指した価格競争は、業界全体の利益率を圧迫する可能性がある。中国からのレガシーチップの市場氾濫は、2023年に中国が成熟ノード生産の拡大を発表した際に予測されていたが、その影響が本格的に現れ始めている。
米中「チップ戦争」の新たな局面となるこの状況が、両国および大小の半導体メーカーに与える影響の全容はまだ見えていない。市場シェア拡大のために利益率が消失していく中で、この成熟チップ市場での争いは両陣営にとって厳しい戦いになると予想される。
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