香港大学法学部のAngela Huyue Zhang准教授によると、中国のAI規制は国内企業の成長を促進するために意図的に緩くなっているとのことだ。
Zhang准教授によると、これまでも中国の規制には常に3つの段階があったという。まず最初に、企業に成長の余地を与える緩やかな規制が行われる段階、その後に利益を削減するような突然の厳しい規制が行われ、最後に緩やかな規制緩和が行われるそうだ。
このパターンは、これまでにも例えばAlibabaやTencentで見られたものだ。両社は緩やかな規制の中で大きく規模を拡大できたが、2020年に突然独占禁止法の罰則を受けることになった。ここで、遡及的に合併や買収が調査され、最終的には高額な罰金を科されるという事態になった。配車サービス大手Didiをニューヨーク証券取引所から上場廃止に追い込んだり、Alibabaの前代表のJack Ma氏が規制に反対する公の場で演説した後、政府がアリババに独占禁止法の罰金を科したりした事もあり、中国政府は略奪的な立場を取るという強い印象を植え付けた。
しかしこうした側面もあるが、政府とテック企業の関係は敵対的というよりは共生的である、とZhang准教授は言う。そして、大々的な取り締まりによって、こうした共生関係を覆い隠していると、Zhang氏は警告している。
実際のところ、ハイテク大手企業は税収と雇用の面で地方自治体、ひいては国家に多大な貢献をしている。ハイテク大手のビジネス上の利益は、自治体の利益と直接結びついているのだ。これをないがしろにすることもないだろう。
AIも同様の道筋を辿るとみられる。特に中国政府は、自国の技術支配と自給自足という目標にとって極めて重要だと考えているからだ。中国政府はAI開発に大きく関与しており、政策立案者、インキュベーター、投資家、研究提供者、顧客として機能している。成功した中国AI企業の背後には、政治的保護を提供する地方政府がある、とZhang氏は言う。
中国の現在のAI法制は、言論の自由とコンテンツ管理の点でのみ厳しく、それ以外は曖昧な原則と、危害から保護するための強制力のある措置をほとんど提供していない。Zhang氏は、中国の現在の規制は欧米の規制よりも緩いと考えている。
「米国では)少なくともFTCがOpenAIの調査を開始しました。中国では、中国サイバースペース管理局(CAC)がBaiduやByteDanceに対して調査を開始したのを見たことがあるでしょうか?そして私は、本当に悪いことが起こらない限り、彼らが将来そのようなことをする可能性は非常に低いと予測しています」と、Zhang氏は述べている。
将来的には変わるかもしれない:Zhang氏によると、政府内では、政治的に有害なコンテンツを防ぎたいインターネット規制当局と、中国の技術力を高めたい当局との間で対立があるという。これまでは後者が優勢だった。しかし、社会の安定を脅かすような大規模なAIの乱用が起きれば、規制強化へと突然シフトする可能性がある、とZhang氏は言う。
こうした一見大きく揺れ動く振り子のような様を、Zhang氏は著書『High Wire: How China Regulates Big Tech and Governs Its Economy』の中で引用したように、中国語のことわざ「一就放乱、一抓就死(緩めれば混乱し、締めれば死ぬ)」と、表現している。
Source
- MIT Technology Review: Why the Chinese government is sparing AI from harsh regulations—for now
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