ハードディスクドライブ(HDD)の容量拡大が、今後数年でさらに加速する可能性が高まっている。IEEEの最新の業界ロードマップによると、2028年には現在の2倍以上となる60TBのHDDが登場する見込みだ。この予測が現実となれば、データストレージ市場に大きな変革をもたらすことになるだろう。
IEEEの予測が示すHDD容量の飛躍的拡大
IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)が発表した「International Roadmap for Devices and Systems Mass Data Storage」レポートによると、HDDの容量は2024年の30TBから、わずか4年後の2028年には60TBへと倍増すると予測されている。この急激な容量拡大は、ここ数年停滞していたHDD容量の成長が再び活発化することを示唆している。
この予測の背景には、新たな記録技術の導入が大きく関わっている。特に注目されているのが、エネルギー支援磁気記録(EAMR)技術だ。中でもSeagateが先駆的に開発を進めているHAMR(Heat Assisted Magnetic Recording)は、HDDのアレアル密度(単位面積あたりの記録密度)を大幅に向上させる可能性を秘めている。
IEEEの予測によれば、60TB HDDの実現には、現在の約2TB/平方インチから4TB/平方インチ以上へとアレアル密度を倍増させる必要がある。さらに、2037年までには10TB/平方インチを超える密度が達成され、100TB規模のHDDが登場する可能性も示唆されている。
だが、60TB HDDの実現に向けては、さまざまな技術的課題を克服する必要がある。IEEEのレポートでは、ディスクメディアと読み書きヘッドの両方で「重要な進歩が必要」だと指摘している。具体的には、新しい磁性体や非磁性体材料の開発、1nm未満の薄さを持つ誘電体コーティングの実現、ディスクオーバーコートの改良などが挙げられている。
興味深いのは、これらの技術革新が進む一方で、HDDの回転速度は従来の7200RPMが維持されると予測されている点だ。つまり、性能向上は主にディスプラッターの面密度の増加によってもたらされることになる。これにより、シーケンシャルな読み書き速度は向上するものの、1TBあたりのIOPS性能は低下する可能性がある。
また、IEEEのロードマップは、HDDの出荷台数についても予測を立てている。2022年の1億6600万台から、2028年には2億800万台、2037年には3億5900万台へと増加すると予想されている。これは、過去10年間続いていたHDD出荷台数の減少傾向が反転する可能性を示唆している。
Xenospectrum’s Take
IEEEの予測は、HDDの技術革新と市場動向に関する重要な洞察を提供している。60TB HDDの登場は、ビッグデータ、AI、IoTなどの分野で急増するデータ需要に対応する上で重要な役割を果たすだろう。
しかし、この予測には課題も存在する。面密度の飛躍的な向上や新材料の開発には、多大な研究開発投資が必要となる。また、SSDなどの競合技術の進化も考慮に入れる必要がある。
一方で、HDDの出荷台数増加の予測は、クラウドストレージやデータセンターの需要拡大を反映していると考えられる。ただし、この予測が実現するかどうかは、HDDの価格競争力や信頼性の向上にも大きく依存するだろう。
消費者向けストレージではSSDの普及に伴いHDDの需要は低下しているように見え、“時代遅れ”なイメージのついて回るHDDだが、IEEEのロードマップは、HDDが今後も重要なストレージ技術として進化し続けることを示唆している。しかし、この予測を現実のものとするためには、技術的課題の克服と市場ニーズへの適切な対応が不可欠だ。今後のHDD技術の発展と市場動向に、引き続き注目していく必要がある。
Sources
コメント