量子コンピューティング業界の先駆者として知られるD-WaveとRigetti Computingが、再び株式市場からの退場を迫られる危機に直面している。両社の株価が1ドルを下回る状態が続いており、それぞれが上場する証券取引所から警告を受けたことを報告しているのだ。この事態は、量子コンピューティング技術の実用化に向けた道のりの険しさを浮き彫りにしている。
株価低迷の背景と上場廃止の危機
D-WaveとRigettiは、量子コンピューティング分野で先駆的な役割を果たしてきた企業だ。しかし、両社は現在、深刻な経営危機に直面している。
D-Waveは、ニューヨーク証券取引所(NYSE)から、株価が30取引日連続で1ドルを下回ったため、上場基準を満たしていないとの通知を受けた。これは同社にとって3度目の警告となる。一方、Rigettiも同様の理由でNasdaqから警告を受けており、こちらは2度目の危機となる。
両社の株価低迷の背景には、量子コンピューティング技術の実用化が予想以上に時間を要していることがある。IDCのリサーチマネージャー、Heather West氏は「量子コンピューティングは、特にゲートベースのシステムにおいて、まだ初期段階にある技術です」と指摘する。また、投資家の関心が人工知能(AI)分野にシフトしていることも、量子コンピューティング企業の資金調達を困難にしている要因の一つだ。
上場廃止となれば、両社は投資家の信頼を失い、資本市場へのアクセスが制限される可能性がある。これは、長期的な技術開発に多額の資金を必要とする量子コンピューティング企業にとって致命的な打撃となりかねない。
両社の対応策
この危機を乗り越えるため、D-WaveとRigettiは具体的な対策を講じている。D-Waveは、6ヶ月以内に株価を1ドル以上に回復させる意向を表明し、逆株式分割などの選択肢を検討している。Rigettiも同様に、2025年3月17日までに10営業日連続で株価を1ドル以上に維持することを目指している。
両社の最新の業績を見ると、D-Waveは2024年第2四半期に前年同期比28%増の220万ドルの売上を記録し、Rigettiは310万ドルの売上を報告している。しかし、Rigettiは1610万ドルの営業損失も計上しており、収益性の改善が急務となっている。
量子コンピューティング業界の展望について、West氏は「論理量子ビットの開発とエラー修正に関して最近いくつかのR&Dの進展がありましたが、ベンダーは依然として、実世界の価値ある問題を解決するために必要な、多数の高品質な量子ビットを備えた量子システムのスケールアップに課題を抱えています」と分析している。
Xenospectrum’s Take
D-WaveとRigettiの上場廃止の危機は、量子コンピューティング業界全体が直面している課題を象徴している。技術の成熟度、投資家の期待、そして実用化までの時間軸のミスマッチが、この状況を引き起こしていると考えられる。
量子コンピューティングは依然として革命的な可能性を秘めているが、その実現には長期的な視点と持続的な投資が不可欠だ。短期的な収益性よりも、技術の進歩と実用化に向けたマイルストーンの達成が重要となる。
一方で、AIブームの影で投資家の関心が薄れていることは、量子コンピューティング企業にとって新たな差別化と価値提案の必要性を示唆している。量子-AI融合技術の開発や、量子コンピューティングの独自の強みを活かした応用分野の開拓が、今後の成長の鍵となるだろう。
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