JR東日本は2028年度以降、スマートフォンの位置情報を活用することで、駅での改札機通過が不要となる革新的なSuicaシステムを実用化する計画を進めていることが日本経済新聞の報道で明らかになった。2028年度以降の実用化を目指すこの取り組みは、利用者の利便性向上とインフラコストの削減を同時に実現する野心的な計画となっており、「鉄道会社」から「データカンパニー」への変容を図る包括的なデジタル戦略の中核をなす取り組みと見られる。
改札フリー化がもたらす駅利用体験の変革
新システムの核となるのは、モバイルSuicaの位置情報トラッキング機能だ。利用者のスマートフォンから取得する位置データを基に、乗車駅から降車駅までの移動を自動で検知し、適切な運賃を徴収する仕組みを構築する。これにより、改札機での煩わしいタッチ操作が不要となり、駅構内の移動がよりスムーズになる。
ただし、技術的な実装においては、JR他社や私鉄との直通運転区間における精算方法など、複数の課題が残されている。特に、異なる事業者間でのデータ連携や運賃按分の仕組みについては、今後の協議で詳細を詰めていく必要がある。JR東日本は一定期間の実証実験を経て、2028年度以降の本格導入を目指している。
だが、この変革によるインフラ面で期待される効果は大きい。現在、首都圏で約3500通路分を保有する改札機は1台あたり数千万円規模の設備投資を必要としており、その維持管理コストは経営課題の一つとなっている。新システムの普及により、将来的な改札機の削減が可能となれば、設備投資の最適化にもつながる。老朽化した改札機の更新時期を迎える駅から段階的に導入を進めることで、システム移行に伴うリスクを最小限に抑える戦略だ。
さらに、このシステムは駅の混雑緩和にも貢献する可能性を秘めている。改札での接触を減らすことで、特に通勤ラッシュ時の駅構内の人流がスムーズになると期待される。加えて、改札機の設置スペースを他の用途に転換できれば、駅空間の有効活用という観点からも新たな可能性が広がる。
ただし、システムの信頼性確保は必須の課題だ。位置情報の精度、バッテリー消費、通信障害時の対応など、実用化に向けては様々な技術的ハードルをクリアする必要がある。JR東日本は、これらの課題に対して段階的な実証実験を通じて解決策を見出していく方針を示している。
データカンパニーへの変革を加速
JR東日本が目指すデータカンパニーへの変革は、改札フリー化を超えた包括的なデジタル戦略の一環として進められている。その中核となるのが、2026年度までに実施予定の改札データのクラウド統合だ。これまで地域ごとに分散していたデータを一元管理することで、より柔軟なサービス展開が可能となる。
特筆すべきは、モバイルSuicaの強みを活かした決済プラットフォームとしての進化だ。現在3147万件の累計登録数を誇るモバイルSuicaは、PayPay(約6600万)やd払い(約6300万)には及ばないものの、確固たる地位を築いている。2028年度以降に導入予定の個人間送金機能は、この基盤をさらに強化する重要な施策となる。
より具体的な展開として注目されるのが、2028年度に予定される「Suicaアプリ(仮称)」の導入だ。このアプリではSuica、JREバンク、えきねっとなど、約20種類に分散していた会員IDを共通化し、シームレスなサービス提供を実現する。利用者の決済データと移動データを組み合わせることで、個々のニーズに即したパーソナライズされたサービスの提供も視野に入れている。
データ活用の実践例として、すでに2023年10月から駅利用者の潜在的な購買力を算出できるサービスを開始している。Suicaの利用データと公的統計を組み合わせ、駅周辺への出店を計画する企業に対して、市場調査の基礎データとして提供するものだ。この取り組みは、データ活用による新たな収益源の確立を目指す同社の方向性を象徴している。
非鉄道事業における収益は2024年3月期で8470億円に達しているが、JR東日本はこれを今後10年で倍増させる目標を掲げている。この野心的な目標の達成に向けて、Suicaの機能拡張は商業施設やホテルなど、各サービスとの接点を増やす重要な役割を担う。テレワークの定着による鉄道利用の減少や、地方路線の過疎化、首都圏人口の減少といった構造的な課題に直面する中、データ駆動型のビジネスモデルへの転換は、まさに生き残りをかけた戦略的施策といえるだろう。
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コメント
コメント一覧 (1件)
位置情報操作してのキセルの防止策や
高架下通過による誤認識とかが
ちゃんと考慮されてるのか気になっちゃう