半導体業界は今大きな変革期を迎えている。米Marvell Technologyの時価総額が1,020億ドルを記録し、老舗のIntelを上回る事態となった。AI需要の高まりを背景に、新興勢力の台頭が鮮明になっている。
好調な業績がMarvellの株価を押し上げ
Marvellは2024年度第3四半期決算において、市場予想を大きく上回る好業績を達成した。売上高は前年同期と比較して7%増の15.2億ドルに達し、この成長を牽引したのは主にAI関連製品の旺盛な需要である。特筆すべきは非GAAPベースの粗利益率の改善で、これは同社の製品競争力と価格決定力の向上を如実に示している。
この業績を受けて発表された第4四半期の業績予想も極めて強気の内容となった。売上高は18億ドルを見込み、より注目すべきは非GAAPベースの粗利益率が60%に達すると予測している点である。この数字は、同社の製品が市場で強い競争優位性を持っていることを示唆している。高い粗利益率は、研究開発への再投資や株主還元の原資となり、持続的な成長サイクルを生み出す可能性を秘めている。
この好業績と強気な見通しを背景に、Marvellの株価は史上最高値を更新し、一時的に時価総額が1,020億ドルに達した。その後、若干の調整があったものの、982.2億ドルという高水準を維持している。これはIntelの時価総額902.3億ドルを上回る規模であり、半導体業界における力関係の変化を象徴する出来事となった。
特に注目すべきは、この成長がAIインフラストラクチャー向け製品の好調な販売に支えられている点である。データセンターの需要増加に伴い、高性能なネットワーキング製品やデータ処理ソリューションへの投資が拡大しており、Marvellはこの成長市場において強固なポジションを確立している。同社の製品ポートフォリオは、現代のデータセンターが必要とする高速データ転送、効率的なデータ処理、そして低レイテンシーな通信といった要件に適切に対応しており、これが業績の持続的な向上につながっている。
新旧チップメーカーの明暗を分けたAI需要
Marvellの躍進とIntelの苦境は、半導体業界におけるパラダイムシフトを鮮明に映し出している。1990年代半ばに設立されたMarvellは、データセンターやクラウド事業者向けに特化した半導体ソリューションの開発に注力してきた。同社の製品ポートフォリオには、データ処理ユニット(DPU)、ストレージアクセラレータ、イーサネットコンポーネント、データセンター向けスイッチ、DCIオプティカルモジュール、トランスインピーダンスアンプなど、現代のAIインフラストラクチャーに不可欠な製品群が揃っている。
特筆すべきは、Marvellが2017年以前には消費者向けデバイス用のチップも手がけており、初代iPhoneのWi-Fiチップや、Chromecastの第1世代および第2世代向けのArmada 1500シリーズSoCを供給していた点である。しかし、同社は戦略的な判断により、この部門をSynapticsに売却。データインフラストラクチャー向け半導体ソリューションに経営資源を集中させることで、AI時代の需要を的確に捉えることに成功した。
一方、1960年代から半導体産業のリーダーとして君臨してきたIntelは、深刻な経営危機に直面している。同社の株価は過去最高値から実に70%近く下落し、業績の低迷を受けてPat Gelsingerが最高経営責任者(CEO)の座を去ることとなった。さらに、コスト削減策として従業員の15%に相当する人員削減を実施。象徴的な出来事として、長年にわたり採用されてきたダウ工業株30種平均からも除外され、その座をAI需要の恩恵を受けるNvidiaに明け渡すこととなった。
この明暗を分けた最大の要因は、両社のビジネスモデルの違いにある。Intelは長年、PC向けプロセッサを中心とした垂直統合型のビジネスモデルで成功を収めてきた。しかし、AIワークロードに最適化された専用チップの需要が急速に高まる中で、この伝統的なモデルが足かせとなっている。対してMarvellは、データセンターの進化に合わせて製品ラインナップを柔軟に最適化し、特にネットワーキングとデータ処理の領域で強みを発揮している。
さらに、Marvellはファブレス(製造設備を持たない)企業として、最先端の製造プロセスを持つ台湾TSMCなどのファウンドリー(半導体受託製造企業)を活用することで、効率的な製品開発と製造を実現している。この機動的なビジネスモデルが、急速に変化する市場ニーズへの迅速な対応を可能にし、結果として企業価値の向上につながっている。
Xenospectrum’s Take
半導体業界は今、歴史的な転換点を迎えている。長年にわたりx86アーキテクチャで市場を支配してきたIntelが、AI時代の要請に機敏に対応できずにいる一方、Marvellは市場の変化を的確に読み、製品ポートフォリオを最適化してきた。
しかし、この逆転劇を単純な勝敗として捉えるのは早計だろう。Marvellの成功は、特定の市場セグメントへの集中戦略が奏功した結果であり、Intelの総合的な技術力や製造能力を考慮すれば、両社は異なる軸で評価されるべきだ。とはいえ、この出来事は半導体業界におけるパラダイムシフトを象徴する重要な転換点として、長く記憶されることになるだろう。
Source
- The Wall Street Journal: Meet the Small AI Chip Maker Now More Valuable Than Intel
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