トヨタ自動車グループが宇宙産業に本格参入する。同社のイノベーション部門「ウーブン・バイ・トヨタ(Woven by Toyota)」は2025年1月、日本のロケット開発スタートアップ「インターステラテクノロジズ(Interstellar Technologies)」へ70億円を投資すると発表した。この戦略的提携により、自動車製造のノウハウを活かしたロケットの量産化と、衛星通信事業への参入を目指す。
トヨタが描く宇宙戦略の全容
今回の投資は、単なる資金提供にとどまらない包括的な戦略的提携だ。ウーブン・バイ・トヨタは取締役を派遣し、経営にも参画する。両社は2020年から続く人材交流を通じて、トヨタ生産方式(TPS)をロケット製造に応用する取り組みを進めてきた。現在までに、トヨタグループから累計11名が出向し、製造プロセスの改善に取り組んできた実績がある。
ウーブン・バイ・トヨタ CEOの隈部肇氏は「移動体に必要な通信インフラの整備」を重要な目的として挙げる。特に、同社が進める実験都市「Woven City」での自動運転車両の運用には、切れ目のない通信環境が不可欠だという。
急成長する宇宙産業へのアプローチ
ISTによれば、世界の小型衛星打ち上げ需要は2016年の141基から2023年には2,860基へと約20倍に急増している。しかし、2023年の打ち上げ回数を見ると、米国が116回、中国が63回を記録する一方、日本は3回にとどまっている。
インターステラテクノロジズ CEOの稲川貴⼤氏は「トヨタグループは当社がロケットを一点モノの生産から量産体制へと進化させる上で、最適なパートナー」と期待を示す。同社は日本初となるロケットと衛星通信の垂直統合型ビジネスモデルを目指しており、SpaceXのStarlinkのような総合的な宇宙インフラ企業への転換を図る。
自動車から宇宙へ:トヨタの野心
ラスベガスで開催されたCES 2025での発表で、トヨタ会長の豊田章男氏は「移動の未来は地球だけ、あるいは一つの自動車会社だけに限定されるべきではない」と述べ、宇宙産業への参入を示唆した。これはTeslaのElon Musk氏率いるSpaceXを意識した発言とも解釈できる。
トヨタの宇宙事業は今回のインターステラテクノロジズ投資にとどまらない。同社は既に日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力し、NASAのアルテミス計画で使用する月面探査車の開発も進めている。
日本の宇宙産業の構造転換へ
日本政府は2030年代前半までに、基幹ロケットと民間ロケットを合わせて年間30回の打ち上げ能力の確保を目指している。この目標達成には、従来の一品生産型から量産体制への移行が不可欠だ。
今回の提携により、トヨタの製造技術とサプライチェーン管理のノウハウが宇宙産業に導入されることで、日本の宇宙産業全体の競争力強化にもつながると期待される。
Source
コメント