核融合発電の実用化に向けて独自のアプローチを進めるHelion Energyは、4億2,500万ドル(約625億円)のシリーズF資金調達を完了したと発表した。この調達により同社の企業価値は52億4500万ドル(約8,100億円)に達し、2028年のMicrosoft向け商用発電所の建設に向けた体制を強化する。
独自技術の量産体制確立へ、製造能力を抜本的に強化
今回の資金調達には、新規投資家としてLightspeed Venture Partners、SoftBank Vision Fund 2、および某大学基金が参加。OpenAIのSam Altmanをはじめとする既存投資家も追加投資に応じた。この大規模な資金は、同社が開発する革新的な核融合炉の製造能力強化に投じられる。
同社の核融合炉は「磁場反転配位(field-reversed configuration)」と呼ばれる独自方式を採用しており、従来の磁場閉じ込め方式や慣性閉じ込め方式とは一線を画している。最新プロトタイプ「Polaris」は、砂時計型の装置両端に設置された重水素とヘリウム3のプラズマを、強力な磁場により毎時100万マイルという超高速で中央部へと加速・衝突させる。この衝突により生じる1億度という超高温環境下で核融合反応を引き起こし、その反応による磁場の変化を直接電気に変換する仕組みを採用している。
この革新的な設計には、高性能な半導体デバイスとキャパシタが不可欠だ。David Kirtley CEOによれば、現行の「Polaris」プロトタイプには5万個もの大規模パルスパワー半導体が使用されており、これらの部品調達が開発のボトルネックとなっていた。「これまで外部サプライヤーからの調達に3年を要していたキャパシタを、1年以内に自社製造できる体制を整える」とKirtley CEOは説明する。また、核融合炉の心臓部となる磁気コイルについても内製化を進め、製造工程の完全な制御を目指す。
この製造能力の内製化は、単なるコスト削減策ではない。核融合炉に必要な超高性能部品は、既存の半導体やキャパシタの製造ラインでは対応できない特殊な仕様が要求される。そのため、設計から製造までを一貫して自社で手掛けることで、部品の性能向上と製造リードタイムの短縮を同時に実現する狙いがある。
商用化への具体的なロードマップ
Helionの商用化戦略は、具体的な需要家との契約を基盤に据えている。その中核となるのが、2023年に締結したMicrosoftとの電力購入契約だ。この契約では、2028年までに50メガワットの発電所を建設・稼働させることが約束されており、世界初の商用核融合発電所となる可能性を秘めている。
立地選定はすでに数年前から進められており、送電網への接続申請や許認可取得などの準備作業が水面下で進行中だ。「Microsoftの施設向けの用地選定については、すでに数年間取り組んでおり、送電網への接続や許認可取得のプロセスを進めています」とDavid Kirtley CEOは説明する。この慎重な準備姿勢は、2028年という野心的な稼働目標を現実的なものとする重要な布石となっている。
さらに、大手鉄鋼メーカーのNucorとも500メガワット規模の発電所建設で基本合意に達している。Nucorは今回の資金調達にも参加しており、大規模な電力消費産業である鉄鋼業界における戦略的パートナーとしての関係を強化している。鉄鋼製造プロセスの脱炭素化が世界的な課題となる中、核融合発電による安定的なクリーンエネルギー供給は、同社の環境戦略における重要な選択肢として位置付けられている。
Helionの商用炉は、1基あたり50メガワットの発電能力を持つモジュール型の設計を採用している。この設計思想により、需要に応じて複数基を組み合わせることが可能となり、Nucorのような大規模需要家のニーズにも柔軟に対応できる。各モジュールは毎秒数回のペースで核融合反応を繰り返し、安定的な電力供給を実現する計画だ。研究室レベルでは毎秒100回以上の反応サイクルも達成しており、将来的には電力網の周波数である毎秒60回の反応も技術的に視野に入れている。
この商用化計画は、業界の標準的なタイムラインを大きく前倒ししている点で注目を集めている。競合のCommonwealth Fusion Systemsが2030年代初頭の商用化を目指しているのに対し、Helionは少なくとも2年以上早い展開を計画している。この積極的な事業展開は、同社の技術的成熟度に対する自信の表れであると同時に、クリーンエネルギー市場における先行者利益の確保を狙う戦略的判断とも解釈できる。
Xenospectrum’s Take
核融合発電の実用化競争は、Commonwealth Fusion Systemsなど複数のスタートアップが2030年代初頭の商用化を目指して開発を進めている。その中でHelionの強みは、独自技術による直接発電方式と、Microsoft案件という具体的な実績作りにある。
しかし、3年かかっていた部品調達を1年に短縮するという野心的な計画には、相当のリスクが伴う。半導体不足が続く中、製造の完全内製化は正しい判断かもしれないが、予定通りの立ち上げには相当な困難が予想される。2028年のDeadlineまで、業界の注目は間違いなくHelionに集まるだろう。
Sources
- Helion Energy: Announcing Helion’s $425 million Series F
- via TechCrunch: Helion raises $425M to help build a fusion reactor for Microsoft
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