大韓民国超伝導トカマク先進研究装置(KSTAR)は、“韓国の人工太陽”というニックネームを持つ、世界でも有数の核融合実験装置だ。今回このKSTARが、ほぼ1分近くにわたり摂氏1億度という、驚異的な高温を維持し、100秒以上にわたって極めて高温のプラズマを閉じ込める事に成功した事が報告されている。
太陽の7倍の高温
核融合は太陽のような恒星を燃え上がらせている物理的な現象だ。この核融合によって、恒星は何億年も燃え続け、エネルギーを放出しているが、恒星では、地球上で核融合を行うのに必要な温度よりもずっと低い温度(とはいえ1,000万度を超える温度ではあるが)で核融合が起こる。これは、その巨大な質量によって生じる重力によって、核融合が起こりやすい環境になっているからだ。
この現象を地球上で再現し、エネルギーの算出に用いようというのが核融合発電だ。実現の暁には、無制限で炭素ゼロの電力を利用することが出来る事が期待されている。だが、地球上で同様に核融合を発生させるためには現時点では強力な重力に頼ることが出来ず、そのため、恒星に比べて何倍も高い温度が必要となる。
参考までに、我々の太陽はその中心温度が1,500万度と考えられている。KSTARが達成したのは実にこれの7倍なのだ。
今回の結果は、2023年12月から2024年2月にかけての試験で達成された。これは核融合炉プロジェクトにおける新記録となった。
KSTARは2018年に初めてこの閾値に達したが、その時維持で木野はわずか1.5秒だった。その1年後にはプラズマを8秒間高温に保つことができ、2020年には、その記録を20秒間に伸ばした。最後の記録は2021年で、プラズマを30秒間高温に保った。
そして今回の新記録だ。韓国核融合エネルギー研究所(KFE)のチームは、新しいダイバータ環境の構築が、今回の成功の鍵だとしている。
ダイバータは、磁気核融合装置の真空容器の底にあり、表面熱負荷に耐えながら、廃ガスや不純物を原子炉から排出するという重要な役割を担っている。KSTARチームは最近、ダイバータにカーボンの代わりにタングステンを使用することに変更した。
「カーボンをベースとした従来のダイバータと比較して、新しいタングステンダイバータは、同様の熱負荷の下で表面温度のわずか25%上昇を示しました。これは、長パルスの高発熱運転に大きなメリットをもたらします」と研究者らは説明している。
タングステンはあらゆる金属の中で最も融点が高く、KSTARチームが高温プラズマを高閉じ込めモード(Hモードとも呼ばれる)を長時間維持することに成功したのは、主にこの改良が功を奏したためである。研究者らによれば、この変更によって大きな改善が見られたという。
現在、KSTARは1億℃を48秒間維持することができ、高温プラズマを高閉じ込めモード(Hモードとも呼ばれる)で102秒間維持することができる。目標は、2026年末までに300秒間の燃焼プラズマを達成することである。
「新しいタングステンダイバータの環境での最初の実験であるにもかかわらず、徹底的なハードウェアテストとキャンペーン準備により、短期間でこれまでのKSTARの記録を上回る結果を達成することができました。KSTAR運転の最終目標を達成するために、加熱装置と電流駆動装置の性能を順次向上させ、長パルス高性能プラズマ運転に必要なコア技術も確保する計画です」と、KSTAR研究センターのDr.Si-Woo Yoonは声明で述べている。
タングステン・ダイバータにとどまらず、システム全体が核融合領域でどのような挙動を示すかがテストされている。KSTARやジョイント・ヨーロピアン・トーラス(JET)のような実験は、最近別の記録を塗り替えたが、トカマクを使った核融合の能力と、核融合を実現し、効率的で持続可能なものにするために必要な技術の両方のテストベッドである。
KSTARとJETは、核融合炉の本格的なプロトタイプであるITERやその後の核融合炉への道を開くパスファインダー炉である。ITERは来年運転を開始し、投入エネルギーの10倍のエネルギーを生成する予定である。ITERの後継機であるDEMOは、投入エネルギーの25倍を発電する。
「この研究は、核融合原型炉に必要なコア技術を獲得するための青信号です。我々は、ITERの運転と将来の原型炉建設に不可欠なコア技術を確保するために全力を尽くす」と述べた。
原型炉は今年中に建設計画が完了する見込みであり、間もなく建設が開始される予定である。
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