ユタ大学の研究チームが、従来の曲面レンズに代わる世界初の軽量フラットレンズ望遠鏡技術の開発に成功した。この革新的技術は、正確な色再現を維持しながら、宇宙望遠鏡などの重量と大きさを大幅に削減できる可能性を秘めている。
望遠鏡レンズの革命的進化

数世紀にわたり、望遠鏡は光を曲げるために曲面レンズやミラーに依存してきた。映像をより強力に拡大するためには、レンズはより厚く重くなる必要があり、特に天体望遠鏡においては大きな課題となっていた。この問題を解決するため、ユタ大学のRajesh Menon教授率いる研究チームは、従来の曲面レンズと同等の光学性能を持ちながら、はるかに軽量なフラットレンズを開発することに成功したのだ。
「我々は計算手法を用いて、大幅な重量と設置面積の削減で同様の結果を達成できることを実証しました」とMenon教授は説明している。この研究成果は2025年2月3日に『Applied Physics Letters』誌に「Color Astrophotography with a 100 mm-diameter f/2 Polymer Flat Lens」というタイトルで発表され、同誌の表紙を飾った。
研究チームには、主著者のApratim Majumder研究アシスタント教授をはじめ、Alexander Ingold氏、Monjurul Meem氏(現在はIntelのプロセスエンジニア)、物理学・天文学部のTanner Obray氏とPaul Ricketts氏、そしてOblate OpticsのNicole Brimhall氏が参加している。
色収差問題を解決した独自設計
研究チームが開発したのは、直径100mmのポリマー製フラットレンズで、f値2.0(口径に対する焦点距離の比率を示し、数値が小さいほど光を集める能力が高い)、400から800ナノメートルの波長範囲(可視光から近赤外線)をカバーしている。
従来の回折レンズの一種であるフレネルゾーンプレート(FZP)は軽量である利点を持つが、異なる波長の光を異なる角度で回折させるため色収差(色のゆがみ)を生じさせるという欠点があった。一般的なカメラレンズでは、すべての波長の光が同じ角度で曲がるのに対し、FZPの同心円状のリッジは波長によって光の曲がり方が異なり、結果として色がずれてしまうのだ。
「シミュレーションは、可視光から近赤外線までの非常に広い帯域にわたるレンズの性能を予測するため、膨大なデータセットを扱う複雑な計算問題を解く必要がありました。レンズの微細構造の設計を最適化した後、製造プロセスには非常に厳格なプロセス制御と環境安定性が要求されました」と研究の主著者であるMajumder氏は述べている。
この新しいレンズの核心は、基板上にパターン化された微視的に小さな同心円状のリングにある。従来のFZPのリッジとは異なり、フラットレンズのくぼみのサイズと間隔は、回折した光の波長が十分に近接するように最適化されており、フルカラーで焦点の合った画像を生成することができる。この技術はユタ大学のUTAH Nanofabの設備を活用して実現された。
太陽と月の撮影に成功

研究チームは、開発したフラットレンズの性能を太陽と月の撮影実験で実証した。カスタム三脚マウント望遠鏡にこの新しいレンズを装着し、月のクレーターや太陽の黒点などの細部まで鮮明に捉えることに成功した。また、ソルトレイクシティのスカイラインなど近距離の被写体の撮影にも成功している。
撮影後の処理では、赤、青、緑のチャンネルを分離、フィルタリング、結合した後、Photoshopで光のカーブを調整するなどの技術を用いて画像の精度をさらに向上させている。これは通常の写真処理技術だが、新型レンズの特性に合わせた調整が必要だった。
「私たちのデモンストレーションは、航空宇宙ベースの望遠鏡で使用するためのフルカラー画像をキャプチャする能力を持つ、非常に大きな口径の軽量フラットレンズを作成するための足がかりです」とMajumder氏は述べている。
宇宙探査から医療まで広がる応用可能性
この技術的ブレークスルーは天体写真撮影を超えて、様々な分野に革新をもたらす可能性を秘めている:
- 宇宙探査:従来の宇宙望遠鏡(ハッブル宇宙望遠鏡など)は巨大な曲面ミラーを使用しているが、フラットレンズ技術を活用すれば、同等の光学性能を維持しながら重量を大幅に削減できる。これにより打ち上げコストの削減や、より多くの望遠鏡を搭載できる可能性が生まれる。
- 衛星画像技術:地球観測衛星にとって、重量と容積は常に重要な制約条件である。軽量フラットレンズを用いることで、高解像度カメラの性能を維持しながら、より小型の衛星開発が可能になる。
- ドローン技術:高性能カメラを搭載したドローンの飛行時間は、機器の重量に大きく影響される。軽量レンズ技術により、飛行時間の延長や小型化が実現できる。
- 医療イメージング:内視鏡などの医療機器では、小型で高性能な光学系が求められる。フラットレンズ技術は、より小さく非侵襲的な医療機器の開発につながる可能性がある。
- アマチュア天文学:高価で重い望遠鏡は、天文学愛好家にとって大きな障壁となっている。この技術により、より手頃な価格で軽量な高性能望遠鏡が実現すれば、より多くの人々が天体観測を楽しめるようになるだろう。
「成功すれば、これらのフラットレンズは、天文学や地球観測のためのより単純で安価な航空機搭載および宇宙ベースの撮像システムにつながる可能性があります。より軽く、より安価な地上ベースの望遠鏡も、趣味家による使用を含め、多くの用途があるでしょう」とMenon教授は述べている。
計算技術と精密製造を組み合わせることで、Menon教授のチームは光学性能を維持しながら、従来のデザインの重量と制限を取り除いたレンズを作り出した。彼らの研究は、望遠鏡、衛星、その他の撮像装置が世界と宇宙を捉える方法を変革する、軽量で高品質な光学システムの未来に向けた重要な一歩を示している。
論文
- Applied Physics Letters: Color astrophotography with a 100 mm-diameter f/2 polymer flat lens
参考文献
- The University of Utah: The Future of Telescopes is Flat
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