シェフィールド大学の研究チームが、ブラックホールは「終わり」ではなく「始まり」かもしれないという革命的な理論を発表した。この研究によれば、宇宙の中で最も謎めいた天体であるブラックホールは、その生涯の終わりに「ホワイトホール」へと変化し、物質やエネルギー、さらには時間そのものを宇宙に放出する可能性があるというのだ。
量子力学がブラックホールの特異点を再定義
Albert Einsteinの一般相対性理論によれば、ブラックホールに落ち込んだものは全て、その中心にある「特異点」と呼ばれる無限に密度の高い一点で押しつぶされ、時間と空間が終わるとされてきた。しかし、シェフィールド大学のSteffen Gielen博士とマドリード・コンプルテンセ大学のLucía Menéndez-Pidal氏はこの定説に異を唱える。量子力学の法則を適用することで特異点は終わりではなく、ホワイトホールへの「通過点」である可能性を示したのだ。
ホワイトホールは、ブラックホールとは正反対の性質を持つ、理論上の天体である。物質を吸い込むのではなく、逆に物質、エネルギー、そして時間をも宇宙空間に放出すると考えられている。
研究チームは「平面ブラックホール」と呼ばれる二次元平面の境界を持つ単純化されたモデルを使用し、この理論を検証した。ブラックホールの特異点が実際には大きな「量子的ゆらぎ」の領域に置き換えられる可能性を示した。彼らは、ブラックホールの中心にあると考えられていた特異点を、量子ゆらぎ、つまり空間のエネルギーの微小な変化に置き換えることで、シミュレーションを行った。
その結果、空間と時間は特異点で終わるのではなく、「量子ゆらぎ」によって、ホワイトホールと呼ばれる新たな段階へと移行することが示された。つまり、ホワイトホールは「時間が始まる場所」である可能性があるのだ。
シェフィールド大学のSteffen Gielen博士は、次のように説明する。 「量子力学では、私たちが理解しているような時間、つまりシステムが絶えず変化し進化する時間は、終わることができません」。
ホワイトホール:ブラックホールの「双子」
ブラックホールが周囲の全てを飲み込むのに対し、ホワイトホールはその正反対の振る舞いをすると理論付けられている。ホワイトホールは物質や光を宇宙に放出し、宇宙の再生に関する新しい視点を提供する可能性がある。
研究者らは、量子力学の原理を用いて、ブラックホールの中心で一種の量子的「バウンス」(跳ね返り)が起こり、そこから物質だけでなく時間そのものも放出されるホワイトホールが形成される可能性を示した。
「理論上は、観測者—仮説的な存在—がブラックホールを通過し、我々が特異点と考えるものを通って、ホワイトホールの反対側に現れることも可能です」とGielen博士は言う。「これは観測者の非常に抽象的な概念ですが、理論上は起こりうることです」
ダークエネルギーと時間の新しい関係性
この研究の革新的な側面の一つは、時間とダークエネルギー(宇宙の加速膨張を引き起こすとされる謎のエネルギー)の間に新しい関係性を提案していることだ。
「一般的に時間は観測者によって相対的だと考えられていますが、我々の研究では時間は宇宙全体に浸透する謎めいたダークエネルギーから派生するものです」とGielen博士は述べている。「我々は宇宙に遍在し、その現在の膨張の原因となっているダークエネルギーによって時間が測定されると提案しています。これがブラックホール内で起こる現象を把握するための重要な新しい考え方です」
研究者らはダークエネルギーをほぼ基準点として使用し、エネルギーと時間を互いに測定できる補完的な概念として捉えている。この視点からすると、特異点で時間が終わるのではなく、新しい段階、つまりホワイトホールへと移行することになる。
ブラックホールからホワイトホールへ:もし通過できたら?
ブラックホールがホワイトホールに変換されるという考えは、興味深い可能性を提起する。もし空間と時間が特異点を超えて続くのであれば、理論的には、観測者がブラックホールを通過し、新たな領域に現れることもあり得る。
「仮説的には、観測者、つまり仮説上の存在が、ブラックホールを通過し、私たちが特異点と考えるものを通過して、ホワイトホールの反対側に現れる可能性があります」とGielen博士は言う。「これは非常に抽象的な観測者の概念ですが、理論的には起こり得ます」 ただし、現時点ではホワイトホールの存在を示す直接的な観測証拠はない。今回の研究は、あくまで理論的なものであり、今後のさらなる検証が不可欠だ。
物理学の基本理論を変える可能性
この理論的研究は、直接的な観測証拠はまだないものの、物理学の根本的な理解に影響を与える可能性がある。特に、一般相対性理論と量子力学という、互いに矛盾するように見える2つの重要な物理学的フレームワークがどのように共存できるかという長年の難問に新たな視点を提供している。
また、この研究は宇宙論的にも重要な意味を持つ可能性がある。もしブラックホールが実際にホワイトホールへと変化するのであれば、それは宇宙のリサイクルシステムの一部を形成し、さらには別の宇宙や時間的なループ、あるいは宇宙の異なる部分を繋ぐワームホールの存在可能性すら示唆することになる。
シェフィールド大学は、この研究が「宇宙の理解における画期的な新たな基本理論や突破口を切り開く可能性がある」と述べている。今後の研究では、ホワイトホールが実際に検出可能かどうか、またそれらが宇宙の最も深い謎に関する洞察を提供できるかどうかが探求されるだろう。
論文
- Physical Review Journals: Black Hole Singularity Resolution in Unimodular Gravity from Unitarity
参考文献