英国のオンライン安全法(Online Safety Act、OSA)が2025年3月17日から全面施行され、英国の通信規制機関Ofcomが違法コンテンツの取締りを開始した。同法はソーシャルメディアなどのプラットフォームに危険なオンラインコンテンツの検出・削除を義務付け、違反した企業には世界的な売上高の10%または1800万ポンド(約35億円)のいずれか大きい方の罰金が科される可能性がある。
オンライン安全法の概要と規制内容
オンライン安全法は2024年10月に成立した法律で、オンライン上の子どもと大人を保護することを目的としている。同法は検索サービスやユーザー間でコンテンツ共有を可能にするサービスを対象としており、英国に拠点を置かない企業でも、英国ユーザーが多数存在する場合や英国市場を対象としている場合は適用される。
規制対象となる違法コンテンツには、テロリズム、児童性的虐待、ハラスメント、ストーキング、脅迫、虐待、強制的または支配的な行動、憎悪犯罪、プライベート画像の悪用、極端なポルノグラフィー、詐欺など130以上の「優先」犯罪が含まれる。
特に子どもの保護に関しては、子どもがアクセスする可能性のあるプラットフォームに対して、ポルノグラフィーや自傷行為、摂食障害、自殺を奨励・促進するコンテンツなどの有害コンテンツへのアクセスを防止する措置を講じることを義務付けている。
Ofcomの法執行と児童保護の優先
Ofcomは法施行初日に、ファイル共有・ストレージサービスに対する執行プログラムを開始した。これはこれらのサービスが児童性的虐待資料(CSAM)の共有に特に悪用されやすいという証拠に基づいている。
OfcomのSuzanne Cater執行ディレクターは「児童性的虐待は絶対に許せないものであり、ファイルストレージおよび共有サービスはこの恐ろしい資料を共有するために頻繁に使用されています。Ofcomの最優先事項は、サイトやアプリがそれがホストされたり共有されたりするのを防ぐために必要な措置を講じることを確実にすることです」と述べている。
Ofcomはすでに複数のサービスに通知を送り、CSAMに対する対策について「正式な情報請求」を近日中に送付する予定であることを告げている。また、違法有害リスク評価の提出を求めている。
批判と国際的な緊張
この法律は施行前から批判の声も上がっている。XのオーナーであるElon Musk氏は同法を「検閲法案」と呼び、「Donald Trump氏が大統領になってくれて本当に良かった」と述べ、Trump氏が同法の緩和に介入することを期待している。
Trump氏は2月、英国やEUの厳しい規制を「恐喝」と非難し、これらの規制が米国企業の成長を妨げると主張する覚書を発表した。現在、Trump氏は英国政府と交渉中であり、アルミニウムと鉄鋼に対する25%の関税を避けるため、英国がテクノロジー規制を緩和する可能性が指摘されている。
しかし英国政府は、オンライン安全法規制の緩和を検討していないと強調している。英国首相府の広報官は「オンライン安全法はすでに法律です。すでに実施されており、今後数か月で子どもの保護と違法コンテンツへの対応に関する強力な保護措置が導入されます」と述べている。
法律の影響と将来性
この法律により、オンラインプラットフォームは違法コンテンツの検出・削除システムの実装が求められ、子どもがアクセスする可能性のあるサービスは追加の保護措置を講じる必要がある。大規模なプラットフォーム(カテゴリ1サービス)は、成人ユーザーに対してより細かいコンテンツ制御ツールを提供する必要もある。
英国のある議員は、この法律が英国経済に年間40億ポンドの効果をもたらす可能性があると推定している。また、英国当局はこの法律を弱体化させるのではなく、拡大する可能性を示唆している。英国議会のPeter Kyle技術担当長官は、AIによって生成されたCSAMの増加に対応して法律を改正し、より多くのコンテンツを違法とする可能性があると述べている。
オンライン安全法は、デジタル時代における子どもの保護と安全なインターネット環境の構築という課題に対する英国の回答であり、今後のグローバルなオンライン規制のモデルとなる可能性がある。
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