本記事は旧サイトにおいて2023年8月29日に公開した記事を加筆・修正した物です。
量子力学が明らかにした現実離れした現象の1つに「量子もつれ」がある。量子もつれ状態の粒子はリンクしており、例えば量子もつれ状態の粒子を互いに遠方まで(宇宙の端と端でも)引き離したとしても、片方に与えた情報が瞬時にもう片方に伝わるという不思議な特性を持つ。Albert Einsteinはこれを “spooky action at a distance(不気味な遠隔作用)”と呼んだ程だ。
今回、オタワ大学の研究者らは、「光を構成する素粒子である2つのもつれた光子の波動関数をリアルタイムで可視化することを可能にする新しい技術」を実証し、まるで陰陽太極図のようにもつれあう光子の驚くべき画像をもたらした。この量子状態を測定する新しい方法は、現在のシリコンベースのシステムよりもはるかに高速な量子コンピューターの開発に利用できる可能性があるという。
研究者らは今回の新たな技術を「2光子デジタルホログラフィ(biphoton digital holography)」と呼んでいる。
波動関数によって、科学者は、量子実体に関する様々な測定(例えば、位置、速度など)の結果の可能性を予測することができる。この予測能力は、特に急速に発展している量子技術の分野では非常に貴重であり、量子コンピュータで生成または入力される量子状態を知ることで、コンピュータ自体をテストすることが可能になる。さらに、量子コンピュータで使用される量子状態は非常に複雑で、多くの実体が関与し、強い非局所相関(もつれ)を示す可能性がある。
今回の実験での対象は光子であり、量子もつれ状態の光子とは2つの光子が本質的に結びついている特異な状態にあるということを示す。
光子の特性の一つを測定することは、波動関数を特定の状態に収縮させることになるが、量子もつれ状態の光子はその特異な状態により、片方の変化が、もつれた相手がどこまで遠くにあったとしても、瞬時に共有されるのだ。量子状態の性質を理解するためには、多くの測定が必要であり、状態が複雑になればなるほど、より多くの測定が必要となる。
一般に、これは量子トモグラフィと呼ばれる。今回の研究チームは、この量子トモグラフィをより速く、より効率的に行う方法を発見した。既知の量子状態を、測定しようとする量子状態と干渉させるのだ。これにより干渉パターンが形成される。これらの画像から、量子状態の特性を理解することができる。
そして今回、研究者らはここで新たにホログラフィーを用いた。ホログラムは、言うなれば3次元物体の2次元可視化である。つまり、ホログラフィーの原理によって、3次元系の特性を2次元に還元することができるのだ。研究者たちは、未知の量子状態と既知の量子状態の干渉パターンを使って、未知の波動関数を再構築することができた。
しかし、単に理論的に興味深いアプローチというだけではない。この方法は、各ピクセルにナノ秒の解像度でイベントを記録できる先進的なカメラシステムによって可能になった。
「この方法は、これまでの技術よりも指数関数的に速く、数日ではなく、わずか数分あるいは数秒しか必要としない。重要なのは、検出時間がシステムの複雑さに影響されないことです。これは、投影トモグラフィにおけるスケーラビリティという長年の課題に対する解決策です」と、オタワ大学のポスドク研究員であるAlessio D’Errico博士は声明の中で述べている。
この研究のインパクトは、学術界だけにとどまらない。量子状態の特性評価や量子通信の改善、新しい量子イメージング技術の開発など、量子技術の進歩を加速させる可能性を秘めている。
論文
参考文献
- University of Ottawa: Visualizing the Mysterious Dance: Quantum Entanglement of Photons Captured in Real-Time
- via Quantum Insider
研究の要旨
高次元二光子状態は、高次元量子通信から量子イメージングに至るまで、量子応用のための有望な資源である。しかし、新しい同時計数イメージング技術の進歩により、複数の計測を並列化することで、これらの制約を克服することが可能となった。しかし、新しい同時計数イメージング技術の進歩により、複数の測定を並列化することで、このような制約を克服することが可能となった。ここでは、軸外デジタルホログラフィーに類似したバイフォトンデジタルホログラフィーを紹介し、未知の状態と参照状態の重ね合わせの同時計数イメージングを用いて量子状態トモグラフィーを行う。我々はこの手法を、ポンプ光子が様々な量子状態を持つ場合に、非線形結晶中の自発パラメトリックダウンコンバージョンによって放出される単一光子に適用する。提案する再構成技術により、これまでに行われた実験と比較して、より効率的(3桁高速)で信頼性の高い(平均87%の忠実度)任意の空間モードベースの状態の特徴付けが可能となる。多光子デジタルホログラフィーは、効率的で正確な計算ゴーストイメージングと高次元量子情報処理への道を開く可能性がある。
コメント
コメント一覧 (1件)
【量子もつれ状態について】
赤と緑の塊が「子」に該当し、両儀に該当する。
赤と緑の「子」のみでもつれているのではなく、赤と緑の「子」の周りに「もつれ」をもたらす力場が存在する。
力場も、「赤と緑」の両儀であるが、その境界は「黄」。