NASAは、宇宙船をより速く移動させる推進方法の開発に非常に関心を持っている。これまでにその目標を支援するさまざまなアイデアについて何度か報告してきたが、その中で最も成功しているものの多くは、現在一般的に行われている木星を利用したスイングバイと同様に、太陽の重力井戸を利用するものである。しかし、その際には太陽の放射エネルギーが近くにあるものを蒸発させてしまうという重大な障害がある。これこそが、NASAのInstitute for Advanced Concepts(NIAC)が支援し、現在Lawrence Livermore National Laboratoryに所属するJason Benkoski氏が主導するプロジェクトが解決しようとしている課題である。
このプロジェクトは2022年にNIACフェーズIの助成金を受け、耐熱シールドと熱推進システムという2つの異なるシステムを組み合わせることに焦点を当てていた。プロジェクトの最終報告書によると、これら2つの技術を組み合わせることで、宇宙船が太陽の周りでオーベルト機動と呼ばれる操作を行うことが可能になるとのことである。この軌道力学のトリックでは、宇宙船が太陽の重力井戸を利用して高速度で目的方向にスリングショットする。これは他の記事で議論されているSundiver技術に似ている。
では、このプロジェクトのユニークな点は何か。一つは耐熱シールドである。Benkoski博士とそのチームは、2,700 Kまでの温度に耐えられる材料を開発した。これは太陽表面の温度(最大5,800 K)にはまだ遠く及ばないが、かなり近づくには十分で、宇宙機がオーベルト機動を実行できるようにする初めての技術である。
これらの熱特性を持つ材料のサンプルはすでに製造されている。しかし、宇宙飛行に適しているかどうかを理解するには、さらなる研究が必要である。また、耐熱シールドだけではこのマニューバーを実行するのに十分ではなく、宇宙船はこれらの温度に耐えられる推進システムも必要である。
太陽熱推進システムはその可能性がある。これらのシステムは太陽のエネルギーを利用して推進剤を加圧し、それを噴射して推力を得る。これはオーベルト機動の必須要素である。このようなシステムに使用できる燃料にはいくつかの種類があり、フェーズIプロジェクトの研究の大部分は、それぞれの長所と短所を検討することに費やされた。
水素は、太陽熱推進システムで検討される一般的な燃料の1つである。軽量ではあるが、推力として使用されるポイントまで加熱されるため、水素を保存するための大型の極低温システムが必要である。結局のところ、そのトレードオフにより、プロジェクトで検討された推進剤の中で最も効果が低いという結果になった。
驚くべきことに、リチウム水素化物が最速の脱出速度を可能にする燃料として選ばれた。計算によると、その速度は12 AU/年を超える可能性がある。しかし、燃料の保管と取り扱いには制約がある。
Benkoski博士は、モデリングの結果、全体的な勝者としてより一般的な燃料であるメタンを選んだ。リチウム水素化物よりも一般的に最終速度は遅くなるが、その最終速度は依然として10 AU/年以上と立派であり、水素を保管するために必要な低温のような多くの保管上の煩わしさを排除する。
いくつかの欠点もある。計算された最大速度は、現在木星の重力アシストで達成できる速度の約1.7倍にすぎず、すべての高価な耐熱シールドを必要としない。しかし、その場合には宇宙船が移動できる方向が他の興味深い対象物に対する木星の位置に制約されるという他の欠点もある。一方、太陽の周回軌道では、適切に制御された燃焼により、太陽系内外のほぼどこにでも到達することが可能である。
Benkoski博士が最終報告書で述べているように、彼のモデリング計算では、多くの仮定がなされており、その中には、結果に劇的な影響を与える可能性のある投機的な技術ではなく、既に開発された技術のみを使用できるというものも含まれている。現時点では、NASAがこのプロジェクトをフェーズIIに進めることを選択したようには見えず、今後の開発に向けた計画も不明確である。しかし、少なくとも、宇宙船を太陽の向こう側へ、これまでよりもはるかに速い速度で送り出すために何が必要かを理解する一歩である。NASAがこのトピックに継続的に注目していることを考えると、間違いなくいつかはそのミッションが成功するであろう。
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