Dysonといえば、掃除機のイメージが強いだろうが、同社はコロナ禍のド真ん中に空気清浄機能付き高級ヘッドフォン「Zone」を発売していた。これは一度きりの実験的な取り組みなのかと思われたが、今回同社は新たに空気清浄機能を省いた高級ヘッドフォン「OnTrac」を発表し、高級オーディオ分野での取り組みを強化する姿勢を明らかにしている
Dysonらしさを追求した独自デザインと高いカスタマイズ性
OnTracは、Dysonならではの工業的なデザインを踏襲しつつ、ユーザーの好みに合わせて外観を変更できる高いカスタマイズ性を備えている。ヘッドバンドの色を選択できるほか、イヤーカップとイヤークッションは取り外し可能で、7種類の色から選べる。これにより、2,000通り以上のカラーコンビネーションが可能になるという。これは単なる見た目の問題だけでなく、ユーザーが自分の個性を表現し、ヘッドフォンを自分だけの特別な製品にできるという点で、他の競合製品との大きな差別化要因となっている。
ヘッドフォン本体は4種類のカラーバリエーションが用意されている。「CNC Aluminum」はグレーのヘッドバンドに鮮やかな黄色のイヤークッション、「CNC Copper」は紫のヘッドバンドと光沢のある銅色のイヤーカップ、「Ceramic Cinnabar」は淡い赤(ピンクに近い)のヘッドバンドとマットな同色のイヤーカップ、そして「CNC Black Nickel」は全体が黒で統一されている。
OnTracの設計には、Dysonの得意分野である空気力学の知見が活かされている。イヤーカップ内部のスピーカーは耳に向けて13度傾斜させることで、より直接的な音の伝達を実現している。また、ヘッドバンドにはバッテリーを内蔵し、重量バランスの最適化を図っている。
音質面では、Dysonは可聴域を超える広い周波数帯域をカバーすることを重視している。40mmの16Ωネオジウムスピーカードライバーを採用し、6Hzから21kHzまでの周波数に対応している。これにより、深いサブベースから繊細な高音まで、より忠実な音の再現を目指している。また、スピーカーを耳の方向に13度傾けることで、より直接的に音を届ける工夫も施されている。
ノイズキャンセリング性能も、OnTracの大きな特徴の一つだ。8つのマイクを使用したアクティブノイズキャンセリング(ANC)システムは、1秒間に384,000回という高頻度で周囲の音をモニタリングし、最大40dBまでのノイズを低減する。この性能は、Dysonが「業界最高クラス」と誇る物だ。
また、バッテリー性能も驚異的だ。OnTracは、ANCを有効にした状態でも最長55時間の連続再生が可能だ。これは、多くの競合製品を上回る性能であり、長時間フライトでの使用における利便性を高めている。
快適性の面でも、Dysonは細部にこだわっている。高反発ウレタンフォームクッションやマルチピボットジンバルアームの採用により、長時間の使用でも快適な装着感を実現。また、ヘッドバンド内にバッテリーを搭載することで、重量を均等に分散させる工夫も施されている。
OnTracは、MyDyson™アプリとの連携も特徴の一つだ。このアプリを通じて、周囲の音量モニタリングや音質調整、ソフトウェアの自動アップデートなどの機能を利用できる。また、3つのEQ(イコライザー)レベルを提供し、様々な音楽ジャンルに対応できるよう設計されている。
OnTracは、前モデルのZoneが持っていた空気清浄機能を省いたことで、よりシンプルで使いやすいデザインになった。また、価格も949ドルから499.99ドルへと大幅に引き下げられた。しかし、依然としてBose、Sony、Apple、Sonosといった競合他社の製品よりも高価格帯に位置している。
しかし、OnTracにも課題がないわけではない。マルチポイント接続に対応していない点や、一部のBluetoothコーデックの対応が限定的である点は、同価格帯の競合製品と比較すると機能面での制限といえる。
Dysonのチーフエンジニア、Jacob Dyson氏は、「人々が身に着けるだけでわくわくするようなヘッドホンを作りたかった」と述べている。30年以上にわたる音響と騒音低減技術の研究成果を結集させたOnTracは、Dysonのオーディオ分野への本格的な挑戦を象徴する製品といえるだろう。
Dysonは、OnTracを通じてヘッドフォン市場での地位を確立しようとしているが、高い音質とノイズキャンセリング性能、そして独自のデザインと高いカスタマイズ性が、この価格帯でどれだけ消費者の心を掴むことができるか、今後の展開が注目される。
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