量子力学誕生から100周年となる2025年を迎える。この1世紀の間に、科学者とエンジニアたちは量子力学を応用してレーザー、MRIスキャナー、コンピューターチップなどの技術を生み出してきた。
現在、研究者たちは量子コンピューターの構築と、量子情報科学という全く新しい姉妹分野を用いた情報の安全な転送方法の開発に取り組んでいる。
しかし、これらの画期的な技術を生み出したにもかかわらず、量子力学を研究する物理学者や哲学者たちは、この分野の創始者たちが投げかけた大きな疑問のいくつかにまだ答えを見出せていない。量子情報科学の最近の進展を踏まえ、私のような研究者たちは、量子情報理論を用いてこれらの未解決の基本的な問題について新しい考え方を探っている。そして、我々が探求している方向性の1つが、Albert Einsteinの相対性原理を量子ビットに関連付けることである。
量子コンピューター
量子情報科学は、量子の「ビット」すなわち量子ビット(Qubit)に基づいた量子コンピューターの構築に焦点を当てている。量子ビットは歴史的に、Max PlanckとEinsteinの発見に基づいている。彼らは1900年と1905年にそれぞれ、光が離散的な、つまり「量子」のエネルギーの束で存在することを発見し、量子力学の発展を促した。
これらのエネルギー量子は、原子や電子といった小さな物質の形でも存在し、宇宙のあらゆるものを構成している。量子ビットの計算上の利点を生み出しているのは、これらの微小な物質とエネルギーの束の奇妙な性質である。
量子ビットに基づくコンピューターは、古典的なビットに基づくコンピューターよりも大きな計算上の優位性を持つ可能性がある。それは、古典的なビットが1つの問い合わせに対して1か0の二値応答しか生成しないのに対し、量子ビットは量子重ね合わせの性質を利用して無限に多くの問い合わせに二値応答を生成できるからである。この性質により、研究者たちは量子もつれ状態と呼ばれるもので複数の量子ビットを接続することができる。ここでは、もつれた量子ビットが古典的なビットの配列にはない方法で集合的に作用する。
つまり、量子コンピューターは通常のコンピューターよりもはるかに高速に特定の計算を行うことができる。例えば、ある装置が76個のもつれた量子ビットを使用して、古典的なコンピューターの100兆倍の速さでサンプリング問題を解決したと報告されている。
しかし、量子コンピューティングの基礎となるこの量子もつれ状態を引き起こす正確な力や自然の原理は、大きな未解決の問題である。量子情報理論を研究する私の同僚と私が提案した解決策は、Einsteinの相対性原理に関係している。
量子情報理論
相対性原理は、物理法則がすべての観測者にとって同じであり、それは観測者が宇宙のどこにいるか、どのような向きか、あるいは互いにどのように動いているかに関係なく成り立つというものである。私のチームは、量子情報理論の原理と組み合わせて相対性原理を使用し、量子もつれ粒子を説明する方法を示した。
私のような量子情報理論家は、量子力学を力の理論ではなく、情報原理の理論として考える。これは、力とエネルギーが計算を行う上で重要な概念である典型的な量子物理学へのアプローチとは大きく異なる。対照的に、量子情報理論家は、もつれた量子粒子の謎めいた振る舞いを引き起こしている可能性のある物理的な力の種類を知る必要がない。
これにより、量子もつれの説明において私たちには利点がある。なぜなら、物理学者John Bellが1964年に証明したように、力の観点から量子もつれを説明しようとすると、Einsteinが「不気味な遠隔作用」と呼んだものが必要になるからである。
これは、2つのもつれた量子粒子の測定結果が相関しているためである。たとえそれらの測定が同時に行われ、粒子が物理的に大きな距離で離れていても相関は保たれる。したがって、もし力が量子もつれを引き起こしているのであれば、その力は光速よりも速く作用しなければならない。そして、光速よりも速い力はEinsteinの特殊相対性理論に違反する。
多くの研究者が、私のチームが提案した解決策のように、不気味な遠隔作用を必要としない量子もつれの説明を見つけようとしている。
古典的もつれと量子もつれ
もつれにおいては、2つの粒子(仮に粒子1と粒子2と呼ぶ)について集合的に何かを知ることができる。そのため、粒子1を測定すると、即座に粒子2について何かがわかる。
想像してみてほしい。物理学者たちが典型的にAliceとBobと呼ぶ2人の友人に、1組の手袋からそれぞれ1つずつ手袋を郵送するとする。Aliceが箱を開けて左手用の手袋を見たら、Bobが他の箱を開けたときに右手用の手袋を見ることを即座に知るだろう。各箱と手袋の組み合わせは、右手用の手袋か左手用の手袋かのいずれかの結果を生む。測定は箱を開けるという1つの可能性しかないので、AliceとBobは古典的な情報のビットをもつれさせたことになる。
しかし、量子もつれの状況では、もつれた量子ビットが関与し、これらは古典的なビットとは非常に異なる振る舞いをする。
量子ビットの振る舞い
電子のスピンと呼ばれる性質を考えてみよう。垂直方向に向けた磁石を使って電子のスピンを測定すると、常にアップかダウンのスピンが得られ、その中間は存在しない。これは二値の測定結果なので、1ビットの情報となる。
磁石を横向きにして電子のスピンを水平方向に測定すると、常に左か右のスピンが得られ、その中間は存在しない。磁石の垂直方向と水平方向の向きは、この同じビットに対する2つの異なる測定を構成する。したがって、電子のスピンは量子ビットである – 複数の測定に対して二値の応答を生成する。
量子重ね合わせ
ここで、まず電子のスピンを垂直方向に測定してアップであることを確認し、次に水平方向にスピンを測定する場合を考えよう。まっすぐ立っているとき、右にも左にも動かない。そのため、まっすぐ立っている間の横方向の動きを測定すると、ゼロになる。
これは垂直方向のスピンアップの電子について予想されるものとまさに同じである。垂直方向にスピンアップしているため(まっすぐ立っているのと同様)、水平方向には左右のスピンがないはずである(横方向に動かないのと同様)。
驚くべきことに、物理学者たちは、その半分が水平方向に右で、半分が左であることを発見した。これは、垂直スピンアップの電子が水平方向に測定したときに左スピン(-1)と右スピン(+1)の結果を持つということで、まっすぐ立っているときに横方向の動きがないと予想するのと同じように、理にかなっていないように見える。
しかし、すべての左(-1)と右(+1)のスピン結果を合計すると、実際にゼロになる。これは、スピン状態が垂直スピンアップのときに水平方向で予想したとおりである。つまり、平均すると、まっすぐ立っているときに横方向や水平方向の動きがないのと同じになる。
この二値的な結果(+1と-1)に対する50-50の比率が、物理学者たちが垂直スピンアップの電子が水平方向の左右のスピンの量子重ね合わせ状態にあると言うときに言及しているものである。
相対性原理からのもつれ
量子情報理論によると、量子もつれ状態を含むすべての量子力学は、この量子重ね合わせを持つ量子ビットに基づいている。
私と同僚たちが提案したのは、この量子重ね合わせが相対性原理から生じるということである。相対性原理は(再度述べると)物理法則がすべての観測者にとって同じであり、それは観測者が宇宙空間でどのような向きにあっても成り立つというものである。
上向きの垂直スピンを持つ電子が、予想されるように水平磁石をまっすぐ通過するならば、水平方向にはスピンを持たないことになる。これは相対性原理に違反する。相対性原理は、粒子が水平方向で測定されるか垂直方向で測定されるかに関わらず、スピンを持つべきだと述べているからである。
上向きの垂直スピンを持つ電子が水平方向で測定されたときにスピンを持つという事実から、量子情報理論家は相対性原理が(究極的に)量子もつれの原因であると言うことができる。
そして、この原理による説明には力が使用されていないため、Einsteinが嘲笑した「不気味な遠隔作用」は存在しない。
量子もつれの量子コンピューティングへの技術的影響が確立された今、その起源に関する大きな疑問の1つが、高く評価されている物理学の原理によって答えられる可能性があることを知るのは喜ばしいことである。
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