AI開発が加速するに伴い、電力需要も急増している。だが、それと共にクリーンエネルギーへの転換も求められるところではあるが、恐らくそうした需要の全てを解決する核融合発電の実現はまだ何十年も先のことだろう。そうした中、Microsoftの共同創業者であるBill Gates氏は次世代原子力発電に賭けており、そのために設立したTerraPower社がついに次世代原子炉の建設を始めたようだ。
2030年の稼働を目指す
TerraPowerは、人口約2,400人の町ワイオミング州ケムメラーに、今後閉鎖される石炭火力発電所の近くに新たなナトリウム実証プラントを建設する。完成すれば完全に機能する商業用発電所となる予定だ。
「この画期的な出来事は、原子力エネルギーの新しい時代の始まりを意味しています。ナトリウム炉は単なる設計ではなく、クリーンエネルギーへの移行と歴史あるエネルギーコミュニティの支援を提供するプラントです。我々の革新的なナトリウム技術は、調整可能な炭素フリーのエネルギー、ギガワット級のエネルギー貯蔵、そしてリンカーン郡コミュニティへの長期的な雇用を提供するでしょう」と、TerraPowerの社長兼CEOであるChris Levesque氏は述べた。
2030年の稼働を目指して建設が開始されたが、米原子力規制委員会による審査は今年3月に受理されたばかりであり、審査には2年程度の時間がかかる可能性もあることから、まずは原子炉に関わらない部分から建設するようだ。
ナトリウム原子炉プラントとは
このプロジェクトは、溶融ナトリウムベースのエネルギー貯蔵システムを備えた345MWのナトリウム冷却高速炉を特徴としている。この蓄電技術は、必要な時にシステムの出力を、約40万世帯の電力に相当する500MWまで高めることができるとのことで、TerraPowerの次世代原子炉は、原子力発電とエネルギー貯蔵機能とをシームレスに連携する機能を備えた唯一の先進的な原子炉設計となっている。
TerraPower創設者で会長のBill Gates氏は、ナトリウム炉の安全性について自身のブログでこう述べている:
ナトリウムは沸点が水の8倍以上高いので、炉心で発生する余分な熱をすべて吸収することができます。水とは異なり、ナトリウムは熱くなると上昇し、上昇すると冷却されるため、ポンプで送る必要がありません。原発の出力が低下しても、ナトリウムはメルトダウンを引き起こすような危険な温度に達することなく、熱を吸収し続けるのです。
実際の稼働の様子はTerraPowerによるイメージ動画が理解しやすいだろう。
ただしもちろんデメリットがないわけではない。
ナトリウム冷却高速炉で用いられるのは、高純度低濃縮ウラン(HALEU)と呼ばれる物だ。だが、このHALEUの世界的な供給源は主にロシアと中国にあり、これらの国と米国は現在緊張状態にあり、HALEUの入手が困難になることが予想される。
米国でHALEU燃料を製造している企業としては、American Centrifuge Operating (ACO) があるが、2023年11月に最初のHALEUをわずか20kg製造したのみだった。ACOの親会社であるCentrus は、2024年の第1四半期に135kgを追加生産したと報告しているが、それでもまだ十分ではない。
米エネルギー省の推計によれば、「新型原子炉の配備」のためには今後10年で40トン以上の燃料が必要になるという。そして燃料は毎年追加で必要になる。ACOが残りの10年間、四半期ごとに135kgの燃料を生産し続けたとしても、2030年までには3トン程度にしかならないだろう。
だが、Centrus は米国連邦政府から補助を受け次第、生産を拡大する計画ではあるようだ。
また、2030年代初頭の稼働を目指して英国でもHALEUプラントの建設計画が進んでいる。これが実現すればTerraPowerに燃料供給が可能になるかも知れない。
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