Linuxカーネル開発コミュニティに激震が走っている。Rust for Linuxプロジェクトの主要メンテナーであるWedson Almeida Filho氏が、「非技術的なナンセンス」への対応に疲れたとして突如退任を表明したのだ。
ベテラン開発者の突然の退任が示す深刻な問題
Filho氏は2024年9月6日、Linuxカーネルメーリングリストに退任の意向を表明した。彼は約4年間プロジェクトを率いてきたが、「かつての情熱や熱意を失った」と述べている。特に問題視したのは、技術的な議論以外の「ナンセンス」への対応だった。
「メモリ安全な言語が将来のカーネルの姿だと本当に信じています。私は予言者ではありませんが、Linuxがこれを内在化しなければ、別のカーネルがUnixに対してLinuxがしたことを、Linuxに対して行うのではないかと恐れています」とFilhoは警告している。
この退任の背景には、Linuxカーネルへのプログラミング言語Rustの導入をめぐる激しい議論がある。Rustは、メモリ安全性に優れた言語として知られており、バッファオーバーフローやダングリングポインタなどの問題を解決し、ソフトウェアのバグやセキュリティ脆弱性を減らすことができるとされている。
しかし、主にC言語で書かれたLinuxカーネルに新しい言語を導入することは、技術的な課題だけでなく、開発者コミュニティ内の人間関係にも大きな影響を与えている。Filho氏は退任の理由を説明する中で、ある開発者会議の様子を示す動画へのリンクを共有した。その中で、ext4ファイルシステムのメンテナーとして知られるTed Ts’o氏が「ここが重要なポイントだ:君たちは我々全員にRustを学ばせることはできない」と強く主張する場面が含まれている。
コミュニティの分断とRustの未来
Filhoの退任は、Linuxカーネル開発コミュニティ内の深刻な分断を示すものであり、長年C言語でカーネル開発を行ってきたベテラン開発者と、新しい言語や技術を導入しようとする新世代の開発者との間の溝を浮き彫りにする物だ。
Asahi Linuxプロジェクトの開発者であるAsahi Lina氏は、この状況に対して「Cカーネル開発者の一部は、Rustメンテナーの生活をできるだけ困難にしようと決意しているように見えます」と述べ、懸念を表明している。LinaはRustで書いたApple GPU用ドライバーが、Cで書かれたDRMスケジューラーのバグによってのみカーネルパニックを起こすと指摘し、Rustの利点を強調している。
一方で、Linuxの創始者であるLinus Torvalds氏は、Rustの採用が予想よりも遅いことに失望を表明している。「古参のカーネル開発者たちはCに慣れていて、Rustを知りません。ある意味で非常に異なる新しい言語を学ぶことに、彼らはあまり乗り気ではありません。そのため、Rustに対する反発がありました」とTorvalds氏は説明している。
この状況を受けて、SourceHutの創設者であるDrew DeVault氏は、LinuxカーネルへのRustの導入を諦め、代わりにRustで新しいLinux互換カーネルを一から構築することを提案している。「LKMLの政治的な戦いから自由になることは、カーネル空間にRustを持ち込むという野心にとって大きな勝利になるでしょう」とDeVault氏は述べている。
Filho氏の退任は、オープンソース開発における技術的な課題だけでなく、人間関係やコミュニティ運営の難しさという、全く別の問題も露わにした。Linuxカーネルが今後も競争力を維持し、セキュリティを向上させていくためには、新しい技術や考え方を取り入れつつ、長年の貢献者たちの経験や知識も尊重する必要がある。この課題をどのように乗り越えていくのか、オープンソースコミュニティ全体にとっても重要な試金石となるだろう。
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