リニアモーターカーの技術を使ったチタン製人工心臓の移植に初成功

世界初となるリニアモーターカーの技術が採用されたチタン製人工心臓の人体移植が成功したことが報告されている。この画期的な手術は、Texas Heart Institute (THI)とBiVACOR社の緊密な協力のもと、2024年7月9日にテキサス州ヒューストンのBaylor St. Luke’s Medical Centerで実施された。磁気浮上技術を用いた革新的な設計のこの人工心臓は、心臓移植を待つ患者の生命を維持する新たな選択肢となる可能性を秘めている。

革新的な技術で心臓移植待機患者に希望を

BiVACOR Total Artificial Heart (TAH)と呼ばれるこの革新的な人工心臓は、リニアモーターカーにも応用されている磁気浮上（マグレブ）技術を巧みに取り入れているが、これにより、従来の人工心臓が抱えていた課題の多くが解決される可能性が開かれた。特筆すべきは、単一の可動部品で構成される回転式血液ポンプの実現だ。この設計により、機械的摩耗を大幅に軽減し、同時に血液損傷のリスクも最小限に抑えることが可能となった。

手術を受けたのは、57歳の男性患者だ。心原性ショックの重篤な状態にあり、心臓移植の順番を待っていた。約6時間に及ぶ手術の結果、患者の体内にTAHが無事に移植された。術後の経過は医療チームの予想を上回るものだった。術後わずか3日目には人工呼吸器を外すことができ、同日中に椅子に座ることができた。さらに驚くべきことに、術後7日目には150メートルの歩行を達成したという。この急速な回復は、TAHの高い性能と生体適合性があってこそだ。

BiVACOR TAHの技術的特徴は、その構造にある。チタン製の両心室回転式血液ポンプは、磁気浮上技術を駆使して単一の可動部品で機能する。この革新的な設計により、従来型の人工心臓に比べて耐久性と信頼性が大幅に向上した。さらに、この装置は患者の活動レベルに応じて自動調整される機能を備えており、最大で1分間に12リットルの血液を送り出すことができる。これは健康な人間の心臓と同等の性能であり、患者のQOL（生活の質）向上に大きく寄与すると期待されている。

Texas Heart InstituteのJoseph Rogers所長兼CEOは、この画期的な手術の意義について次のように語っている。「心不全が世界的に主要な死因となっている現状において、BiVACOR TAHは心臓移植を待つ数多くの患者にとって、まさに希望の光となります。私たちは、この医療のブレークスルーの最前線に立てることを誇りに思います。BiVACOR社、Baylor College of Medicine、そしてBaylor St. Luke’s Medical Centerの献身的なチームとともに、この脆弱な患者層のための心不全治療の未来を変革できることを光栄に思います」。

今回の手術成功は、FDA（米国食品医薬品局）の早期実現可能性調査（EFS）の一環として行われた。この調査の主な目的は、重度の両心室不全患者、または左心室補助装置のサポートが推奨されない単心室不全患者に対する、心臓移植までの“つなぎ”としてのBiVACOR TAHの安全性と性能を評価することにある。今後、さらに4人の患者を対象とした臨床試験が予定されており、その結果が注目されている。

世界保健機関（WHO）の推計によると、心不全は世界中で少なくとも2600万人に影響を与えている深刻な疾患だ。さらに、米国心臓協会によれば、過去30年間で心臓移植の需要は倍増し、現在では3400人以上が移植を待っている状況だ。しかし、心臓移植の実施数は年間6000件に満たず、深刻なドナー不足が続いている。このような背景から、BiVACOR TAHの臨床試験が成功し実用化されれば、世界中の心臓移植待機患者に新たな希望をもたらすことが期待されている。

この革新的な技術は、単に生命維持の手段というだけでなく、患者のQOL向上にも大きく貢献する可能性を秘めている。今後の臨床試験の進展と、さらなる技術の改良により、心不全治療の新たな時代が幕を開けつつあると言えるだろう。

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Source

• The Texas Heart Institute: The Texas Heart Institute Implants BiVACOR® Total Artificial Heart