元NVIDIAのエンジニアが、史上最大となる41,024,320桁の素数を発見した。この発見により、前回の記録を約1,600万桁上回る新記録が樹立された。素数とは1と自身の数でのみ割り切れる数であり、2, 3, 5, 7, 11と続く数学の基礎となる数値だが、数が大きくなるにつれて発見は著しく困難になることで知られている。
GPUが切り開いた新時代
サンノゼを拠点とする36歳の研究者Luke Durant氏は、世界17カ国24のデータセンターに配置された数千台のGPUを活用し、約1年の計算の末にこの巨大な素数を特定することに成功した。この数は2の136,279,841乗から1を引いた値(2136,279,841-1)で表される。これは特殊な素数の一種である「メルセンヌ素数」として分類され、通算で52番目の発見となる。
発見のプロセスは緻密な二段階の検証を経て確定された。最初の候補特定は2024年10月11日、アイルランドのダブリンに設置されたNVIDIA A100 GPUによって行われた。続いて翌12日、テキサス州サンアントニオのNVIDIA H100 GPUによってリュカ–レーマー・テストが実施され、最終的な確認が完了した。この発見手法は、Great Internet Mersenne Prime Search(GIMPS)が提供する無料ソフトウェアを活用したものである。
この発見は、素数探索の歴史において重要な転換点となった。前回の記録は約5年前、フロリダ州の35歳Patrick Laroche氏によって、Intel Core i5-4590Tプロセッサを12日間稼働させることで達成された。一方、今回の発見はGPUの並列処理能力を最大限に活用することで実現された。GIMPSのWebサイトは「この素数は、通常のパーソナルコンピュータが巨大な素数を発見してきた28年間の時代に終止符を打つものである」と、この技術的転換の重要性を強調している。
歴史的発見の意義と展望
今回発見されたメルセンヌ素数は、300年以上の歴史を持つ数学的探求の最新の成果である。メルセンヌ素数は、17世紀のフランスの修道士Marin Mersenneにちなんで名付けられ、紀元前350年頃のEuclidの時代から数論の中心的な研究対象となってきた。Euclidは、メルセンヌ素数が完全数を生成することを証明しており、これは約2,300年前から続く数学的探究の一環となっている。
この発見の実用的な意義について、GIMPSチームは興味深い見解を示している。「現時点では、これらの大きなメルセンヌ素数の実用的な用途は限られています」としながらも、「数十年前も同様の疑問が存在していましたが、その後、素数に基づく重要な暗号化アルゴリズムが開発されました」と述べ、将来的な応用可能性を示唆している。
技術面での貢献も特筆に値する。Durantは元NVIDIAのエンジニアとしての経験を活かし、GPUが人工知能以外の基礎的な数学や科学研究にも有用であることを実証した。この発見は、現代のGPUが持つ並列処理能力の可能性を示す重要な事例となっている。
発見者のDurantは3,000ドルの賞金を獲得し、これをAlabama School of Math and Scienceの数学部門に寄付する意向を示している。さらなる挑戦への動機付けとして、1億桁の素数発見には150,000ドル、10億桁の素数発見には250,000ドルの賞金が用意されており、数学研究のさらなる発展が期待されている。
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