英国の量子コンピューティング企業Quantum Motionと世界有数の半導体メーカーGlobalFoundries(GF)は、スケーラブルなシリコンプラットフォームを基盤とした量子プロセッサの共同開発で提携したことを発表した。両社は既にQuantum Motion設計の革新的な量子チップの製造に成功しており、その性能は現行技術と比較して少なくとも100倍の高速化を実現している。
革新的な「Bloomsbury」チップが示す量子コンピューティングの未来
Quantum Motionが開発した「Bloomsbury」チップは、量子コンピューティングの実用化に向けた重要な技術的ブレークスルーを体現している。0.1平方ミリメートル未満という極めて小さな面積に1,024個の量子ドットを集積することに成功しただけでなく、その検証プロセスにおいても画期的な進展を示している。
従来の量子デバイスの検証には膨大な時間を要していたが、Bloomsburyチップは高度な無線周波数反射測定技術を採用することで、わずか5分という短時間での検証を実現した。具体的には、3.18マイクロ秒という極めて短い積分時間で75を超える信号対雑音電圧比を達成している。この性能は、現在の標準的な技術と比較して少なくとも100倍の高速化を意味する。
チップの構造も特筆に値する。Bloomsburyは32×32のアレイ構造を採用し、各量子ドットデバイスへのアクセスを可能にする10ビット入力のオールトゥオールマルチプレクサを実装している。具体的には、3本のデバイス制御ラインと10本のデジタルアドレスライン(5本の行選択ラインと5本の列選択ライン)を組み合わせることで、テスト対象の量子ドットデバイスを個別に選択できる革新的な設計となっている。これらの制御はCMOSゲートを通じて行われ、量子デバイスと同一のシリコン基板上に集積されている。
商用半導体プロセスを活用した画期的な製造手法
GlobalFoundriesの300ミリメートルウェハーを使用する22FDXプラットフォームは、量子コンピューティングの産業化に向けて重要な転換点となる製造技術基盤を提供している。この製造プロセスは、従来の半導体製造技術の利点を量子デバイスの製造に効果的に適用することで、量子コンピューティングの実用化に必要な精密性と信頼性を実現している。
特に注目すべき技術的特徴は、このプラットフォームが持つ広範な動作温度範囲への対応能力である。1ケルビン(-272.15℃)以下という極低温での動作を可能にする一方で、通常の半導体デバイスとしても機能する温度範囲をカバーできる。この特性により、量子ビットの制御に必要な古典的な制御回路と量子デバイスを同一チップ上に統合することが可能となっている。
22FDXプラットフォームのもう一つの革新的な特徴は、バックゲートバイアス機能である。この機能は、極低温環境下での量子デバイスの微細な調整と制御を可能にする。従来のバルクシリコンプロセスと比較して、読み出しと制御操作において顕著な優位性を持つこの技術は、量子状態の高精度な制御と測定に不可欠な要素となっている。
産学連携から生まれた技術革新
Quantum MotionはUniversity College LondonとOxford Universityからスピンアウトした企業で、2017年にJohn Morton教授とSimon Benjamin教授によって設立された。従来のCMOSチップを使用した量子コンピュータの開発を目指し、2023年には5080万ドルの資金調達に成功。一方、GlobalFoundriesは米国CHIPS and Science Actの下で15億ドルの政府支援を受け、ニューヨーク州マルタの製造施設拡張を進めている。
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