物理学者たちが長年追い求めてきた重力子の検出に、新たな希望の光が差し込んだ。スティーブンス工科大学とストックホルム大学の研究チームが、量子技術を駆使した革新的な実験方法を提案し、これまで不可能とされてきた重力子の直接観測に道を開く可能性が出てきた。
重力子:宇宙の基本粒子
重力子とは、重力を伝える仮想的な粒子だ。電磁力を伝える光子(フォトン)と同様に、重力子は重力場の力を伝える役割を果たすと考えられている。しかし、その相互作用が極めて弱いため、これまで直接検出することは不可能だと多くの物理学者に考えられてきた。
スティーブンス工科大学の物理学教授Igor Pikovski氏は、「これは長年不可能だと思われてきた基礎的な実験ですが、私たちはそれを実現する方法を見つけたと考えています」と述べている。
提案された実験方法は、巨大な重さ約1,800kgのアルミニウム棒を絶対零度近くまで冷却し、連続的な量子センサーを取り付けるというものだ。この装置が重力波にさらされると、極めて微小なスケールで振動し、そのエネルギー準位間の離散的な遷移(量子ジャンプ)を観測することで、単一の重力子を検出できると考えられている。
革新的な実験設計と技術的課題
この実験設計の特徴は、マクロスコピックな物体で量子効果を観察するという点にある。Pikovski教授は、「多くの物理学者が長年この問題について考えてきましたが、答えは常に同じでした:それは不可能だと」と説明する。しかし、最近の技術進歩により、マクロな物体での量子効果の観察が可能になりつつある。
実験では、LIGOの観測データを活用して、重力波イベントと実験装置の信号を照合することで、背景ノイズとの区別を行う計画だ。スティーブンス工科大学の博士課程学生Thomas Beitel氏は、「LIGO観測所は重力波の検出には非常に優れていますが、単一の重力子をキャッチすることはできません。しかし、私たちは彼らのデータを使って、私たちの提案する検出器と相互相関をとり、単一の重力子を分離することができます」と説明している。
しかし、この画期的な実験には一つの大きな課題がある。それは、必要な量子センサー技術がまだ存在しないことだ。ストックホルム大学の大学院生Germain Tobar氏は、「最近、材料中で量子ジャンプが観察されていますが、まだ私たちが必要とする質量では観察されていません。しかし、技術は非常に急速に進歩しており、私たちはそれをより簡単にする方法についてさらにアイデアを持っています」と述べている。
研究チームは、必要な技術が近い将来に開発される可能性が高いと楽観的だ。Beitel氏は、「この実験が機能することは確実です。重力子が検出可能であることがわかったので、適切な量子センシング技術をさらに開発する動機が加わりました。運が良ければ、すぐに単一の重力子を捕捉できるようになるでしょう」と期待を寄せている。
重力子の検出は、物理学の未解決問題の一つである量子重力理論の発展に大きく貢献する可能性がある。全ての基本的な力を統一的に説明する理論の構築に向けて、重要な一歩となるかもしれない。Pikovski教授は、「量子重力はまだ解決されていないことはわかっていますが、今や私たちは100年以上前に科学者たちが光の量子で行ったように、最初の一歩を踏み出すことができるのです」と語っている。
論文
- Nature Communications: Detecting single gravitons with quantum sensing
参考文献
- Stevens Institute of Technology: New research suggests a way to capture physicists’ most wanted particle — the graviton
- Stockholm University: How to catch a graviton
研究の要旨
重力の量子化は、重力波となる不連続なエネルギーの粒子である重力子を生み出すと広く信じられている。 しかし、その検出はこれまで不可能と考えられてきた。 ここでは、単一重力子交換のシグネチャーが実験室で観測できることを示す。 刺激的、自発的な単一重力子過程が大質量量子音響共振器に関連する可能性があること、また刺激的吸収が量子ジャンプの連続的な感知によって解決できることを示す。 我々は、物質と重力波との間の単一エネルギー量子の交換を観測することの実現可能性を分析する。 われわれの結果は、単一重力子シグネチャーが実験によって達成可能であることを示している。 光子の光電効果の発見と同様に、このようなシグネチャーは重力の量子化の最初の実験的手がかりを提供することができる。
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