不安定性の問題が指摘されているIntel第13・14世代Raptor LakeプロセッサのRMA(返品・交換)において、液体金属サーマルペーストを使用していた場合、保証対象外となることが明らかになった。香港の小売店Synnexを通じて報告された事例では、Core i9-14900Kの不具合に関するRMA申請が、液体金属による製品表面の損傷を理由に却下されているようだ。
液体金属使用がRMA拒否の決定打に
今回の事例は、Intelの保証サービスポリシーの変化を示唆する物と言えるだろう。Raptor Lake世代のCPUで報告されている不安定性の問題に対し、Intelは比較的寛容なRMA対応を行ってきた。実際、一部のユーザーからは代替品としてより上位モデルが提供されたケースも報告されており、同社の顧客対応は柔軟な姿勢を見せていた。
しかし、液体金属サーマルインターフェイスマテリアル(LMTIM)の使用が確認された場合、その姿勢は一変する。今回の事例では、プロセッサ表面の製品型番やバッチナンバー(FPO)、2Dマトリクス(ATPO)といった識別情報が、液体金属による腐食で判読不能となっていた。これらの情報はIntelの品質管理において決定的に重要な要素であり、製品の製造ロットや正規品確認、不具合の追跡調査に不可欠とされている。
香港の小売店Synnexによれば、この判断は地域の代理店レベルではなく、Intel本社による決定だという。注目すべきは、CPUが明確な不安定性の問題を抱えているにもかかわらず、液体金属の使用が保証対象外の決定的な理由となった点である。これは、Intelが製品保証において、性能向上を目的とした非標準的な冷却手法の使用に対して、極めて厳格な立場を取っていることを示している。
液体金属使用の功罪が浮き彫りに
液体金属型サーマルペーストは、従来の熱伝導グリスと比較して圧倒的に優れた熱伝導性を実現する。標準的なサーマルペーストの熱伝導率が8〜12 W/mKである一方、液体金属は73 W/mK以上の熱伝導率を誇る。この特性から、特にオーバークロッカーやハイエンドユーザーの間で重宝されてきた冷却ソリューションである。
しかし、その優れた性能は諸刃の剣となりうる。液体金属は導電性を持つため、CPUソケットの端子や基板上の電子部品に付着した場合、即座に致命的な損傷をもたらす可能性がある。また、材質との相性も重要な考慮点となる。現代のプロセッサで採用されているニッケルメッキされた銅製IHSとは化学的な相性は良好だが、長期使用による「染み」の形成は避けられない。この染みが、今回のケースのように製品識別情報を損なう原因となる。
特に注目すべきは、液体金属の腐食作用が時間とともに進行する点である。初期の使用段階では問題が顕在化しなくても、数ヶ月から数年の使用で徐々にIHS表面を侵食していく。皮肉なことに、このリスクは高性能CPUを長期間使用するパワーユーザーほど顕著となる。さらに、一度液体金属を使用すると、その痕跡を完全に除去することは極めて困難であり、これが保証の観点から重大な問題となっている。
Xenospectrum’s Take
今回の事例は、Intelの保証ポリシーの厳格さと、ハイエンドCPUクーリングのジレンマを浮き彫りにしている。確かに液体金属は優れた冷却性能を提供するが、その使用は文字通り「自己責任」となる。皮肉なことに、より良い冷却を目指したユーザーの選択が、まさに必要となった時の保証を無効にしてしまうのだ。
Raptor Lake世代の不安定性問題に対して、一般に寛容な対応を見せているIntelだが、この事例は同社の譲れない一線を示している。enthusiastはCPU性能の限界に挑戦し続けるだろうが、一般ユーザーにとって液体金属の使用は、そのリスクに見合わない選択かもしれない。工場出荷時に液体金属が塗布された製品以外では、従来型のサーマルペーストで妥協するのが賢明だろう。
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