グローバルなコンテンツデリバリーネットワーク(CDN)プロバイダーのCloudflareが2024年の年次レポートを公開し、世界のインターネットトラフィックが前年比17.2%増加したことが明らかになった。同社は世界のインターネットトラフィックの約20%を処理しており、このレポートは現代のデジタルインフラの実態を示す重要な指標として注目されている。
デジタルプラットフォームの勢力図が明確に
2024年のインターネットサービス市場では、Googleが包括的なサービスポートフォリオを武器に、引き続き最も利用されるプラットフォームとしての地位を確立している。特にGoogle検索は全プラットフォームで首位を維持しており、デジタル広告市場における同社の影響力は依然として強大だ。
次いでFacebook、Apple、TikTok、Amazonという順で利用率が高く、これら上位5社で世界のインターネットトラフィックの相当部分を占める構図が浮かび上がった。特にFacebookは、WhatsAppがメッセージングプラットフォームとして首位を獲得するなど、グループ全体としての強みを見せている。
検索エンジン市場では、デバイスごとに興味深い特徴が観察された。Windows端末ではMicrosoft Bingが2位につける一方、macOSではプライバシー重視の検索エンジンDuckDuckGoが2位にランクインした。この結果は、プライバシーに対する意識の高まりを反映している可能性がある。また中国市場では、Baiduが依然として強い存在感を示しているものの、グローバルでの影響力は限定的にとどまっている。
ブラウザ市場においては、Google Chromeが圧倒的なシェアを維持しており、macOSデバイスでさえもChromeの利用が一般的となっている。ただし、iOSデバイスに限ってはSafariがChromeを上回るシェアを確保しており、Appleのエコシステムの強さを示す結果となった。この傾向は、モバイルデバイスにおけるプラットフォーム事業者の影響力の大きさを改めて浮き彫りにしている。
このように、2024年のデジタルプラットフォーム市場は、既存の大手プレイヤーによる支配的な地位が一層強化される一方で、プライバシーやデバイス特性に応じた新たな競争軸も生まれつつある状況が明らかとなった。特に検索エンジン市場での変化は、ユーザーのプライバシー意識の高まりとともに、市場に新たな競争の余地が生まれている可能性を示唆している。
モバイルプラットフォームの地域性が顕著に
Cloudflareの2024年レポートは、モバイルデバイスを介したインターネット利用において、興味深い地域的な特徴が浮き彫りになっている。全世界のインターネットトラフィックの40%以上がモバイルデバイスから発生しているという事実は、わずか15年前にはほとんど存在感のなかったモバイルインターネットが、いかに急速に普及したかを如実に物語っている。
プラットフォーム別に見ると、Androidデバイスからのトラフィックが全体の約3分の2を占め、残りをiOSが占める構図となっているが、この比率は地域によって大きく異なる。特に注目すべきは、29の国と地域でAndroidのトラフィックシェアが90%を超えるという圧倒的な偏りだ。この現象は、デバイスの価格帯や地域の経済状況と密接に関連している。
たとえば、パプアニューギニアやバングラデシュなど、一人当たりの国民総所得が比較的低い地域では、より手頃な価格帯のAndroidデバイスが圧倒的なシェアを獲得している。これは、スマートフォン市場における経済的な参入障壁がプラットフォームの選択に大きな影響を与えていること示すデータだ。
対照的に、デンマークのようなiOSの優勢な市場では、モバイルトラフィックの66%がiOSデバイスから発生している。この傾向は、高所得国においてApple製品の人気が高いという一般的な観察と一致する。しかし、注目すべきは、iOSが60%以上のシェアを獲得できている国と地域がわずか8つに留まるという事実だ。これは、グローバル市場においてAndroidの優位性が極めて強固であることを示している。
この地域性は単なるデバイス選択の問題を超えて、デジタルサービスの設計やマーケティング戦略にも大きな影響を及ぼしている。例えば、新興市場向けのデジタルサービスではAndroid優先の開発が不可欠となり、またユーザーインターフェースやコンテンツの最適化においても、地域特有のデバイス利用パターンを考慮する必要性が高まっている。
さらに、モバイルトラフィックの地域的な偏りは、グローバルなデジタルデバイドの現状を反映するとともに、モバイルインターネットが果たす役割の多様性も示唆している。特に発展途上国においては、モバイルデバイスが初めてのインターネットアクセス手段となるケースが多く、その意味でAndroidプラットフォームはデジタルインクルージョンの重要な担い手となっているといえる。
セキュリティ課題が深刻化
2024年のインターネットセキュリティ環境は、これまでにない複雑な課題に直面している。Cloudflareのレポートによると、全世界のインターネットトラフィックの6.5%が脅威として検出され、この数字は50カ国以上で10%を超える事態となっている。特に米国での脅威トラフィックが5%にまで上昇し、韓国では8%という警戒すべき水準で推移していることは、サイバーセキュリティの地政学的な重要性を示唆している。
産業別の攻撃傾向にも顕著な変化が見られた。2023年に最も攻撃対象となっていた金融部門に代わり、2024年はギャンブルとゲーム部門が最大の標的となった。この変化は、オンラインゲームやデジタル資産取引の急増に伴う新たな脆弱性の出現を示唆している。攻撃者たちは、これらの産業に特有の決済システムや仮想アイテム取引の仕組みを狙った標的型攻撃を展開している。
電子メールを介したセキュリティ脅威も深刻化の一途を辿っている。全電子メールトラフィックの4.2%が悪意のあるものと判定され、特に3月から5月にかけて顕著な増加が観察された。攻撃手法としては、欺瞞的なリンクとIDスプーフィングが主流となっている。特筆すべきは、.bar、.rest、.unoといったトップレベルドメインから送信されるメールのほぼ全てが、スパムまたは悪意のある内容として検出されたことだ。
一方で、セキュリティ技術の進化も着実に進んでいる。2024年8月に発表された新しいNIST標準の採用が進み、Apple iMessage、Signal、Google Chromeなどの主要プラットフォームが量子暗号後(PQC)対応を強化した。その結果、PQCを使用するTLS 1.3トラフィックは前年の1.7%から12.87%まで増加した。これは、量子コンピュータによる暗号解読の脅威に対する予防的な対応として評価できる。
インターネットインフラの信頼性という観点では、2024年中に220件を超える重大な障害が報告され、前年の180件から大幅に増加している。これらの障害の主な原因は政府主導の遮断であるが、バルト海周辺での通信ケーブルの切断や、ハイチ、バングラデシュにおける長期的な障害など、新たなパターンも出現している。軍事行動や深刻な気象現象による影響も無視できない要因となっており、デジタルインフラの物理的な脆弱性も浮き彫りとなっている。
このような多層的なセキュリティ課題に対し、企業や政府機関は従来の防御策の見直しを迫られている。特に、サイバー攻撃の高度化と多様化に対応するため、AIを活用した防御システムの導入や、ゼロトラストアーキテクチャの採用が加速している。また、インターネットインフラの冗長性確保や、クロスボーダーでのセキュリティ協力体制の強化も急務となっている。
Source
- Cloudflare: Cloudflare 2024 Year in Review
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