フィンランドの量子コンピューター開発企業IQM Quantum Computersが、量子コンピュータの実用化におけるブレークスルーを達成した。同社は、プロトタイプの量子プロセッサで99.9%という前例のない高い量子ビット忠実度を達成したのだ。
量子プロセッサの性能向上がもたらす革新
IQM Quantum Computersは、量子コンピューターの性能を特徴づける2つの重要な指標において大幅な改善を実現した。その中でも特筆すべきは、2量子ビット操作における誤り率の大幅な低減である。同社は、interleaved randomised benchmarkingによって検証された(99.91 ± 0.02)%の忠実度を持つCZゲートを2つの量子ビット間で実証した。
2量子ビットゲートの高い忠実度は、量子プロセッサの最も基本的かつ達成が困難な特性の一つである。これは量子ビット間のもつれ状態(エンタングルメント)の生成やアルゴリズムの実行に不可欠であり、量子コンピューターの性能向上において極めて重要な役割を果たす。量子もつれは、Einsteinが「不気味な遠隔作用」と呼んだ量子力学の基本原理であり、離れた量子ビット同士が直接的に影響し合う現象を指す。
同社の副社長であるJuha Hassel博士は、この成果について次のように述べている。「この成果は、業界における我々の技術的リーダーシップを確固たるものにしました。我々の量子プロセッサの品質は世界クラスであり、これらの結果は、さらなる飛躍の機会があることを示しています」。
加えて、IQMは量子ビットの安定性も向上させた。シリコンチップ上のプレーナトランズモン量子ビットにおいて、0.964 ± 0.092ミリ秒の量子ビット緩和時間T1と、1.155 ± 0.188ミリ秒の位相緩和時間T2エコーを実証した。これらのコヒーレンス時間は、物理的な量子ビットにおいて量子情報がどれだけ長く保持できるかを示す重要な指標である。
1ミリ秒近いコヒーレンス時間は、量子操作の世界では相当な進歩である。例えば、IBMの127量子ビットEagleプロセッサのコヒーレンス時間が400マイクロ秒程度であることを考えると、IQMの成果がいかに画期的かがわかる。
フォールトトレラント量子コンピューティングへの道筋
IQM Quantum Computersが達成したこれらの成果は、「フォールトトレラント(耐障害性)」量子コンピューティングの実現に向けた重要な一歩である。フォールトトレラント量子コンピューティング(FTQC)とは、量子計算における誤りを自動的に修正できるシステムを指す。高い量子ビット忠実度と長いコヒーレンス時間は、このシステムの実現に不可欠な要素である。
量子ゲートは、古典的なコンピューターのロジックゲートに相当する量子回路の基本要素である。ロジックゲートがバイナリデータ(1と0)を使用して基本的な操作を実行する意思決定者として機能するのに対し、量子ゲートはより複雑な量子状態を操作する。高い忠実度を持つ2量子ビットゲートは、量子もつれ状態の生成に不可欠であり、これにより量子コンピューターの真の力を引き出すことが可能となる。
これらの技術的進歩により、IQMは現在の20量子ビット量子コンピューターよりもさらに複雑な用途に対応可能な量子プロセッサの開発に近づいている。同社は、機械学習、サイバーセキュリティ、経路最適化、量子センサーシミュレーション、化学、製薬研究など、幅広い分野での応用を積極的に探索している。
Hassel博士は、「我々は技術ロードマップに沿って着実に進んでおり、機械学習、サイバーセキュリティ、経路最適化、センサーシミュレーション、化学、製薬研究などの分野での潜在的な使用事例を積極的に探索しています」と述べている。
IQMの成果は、量子コンピューティング技術の成熟度を示すものであり、次世代の高性能量子プロセッサの開発を支える基盤となることが期待される。同社は、「これらの主要な結果は、IQMの製造技術が成熟し、次世代の高性能量子プロセッサをサポートする準備ができていることを示しています」とプレスリリースで述べている。
さらに、IQMはこの成果が業界でもトップクラスであることを強調している。「これらの結果の重要性は、これまでに比肩する性能数値を達成した組織がごくわずかであることから生じています」と同社は述べている。この成果は、量子コンピューティング分野における技術革新の加速を示すものであり、より実用的で安定した量子コンピューターの開発に向けた重要な一歩となるだろう。
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