NASAが先日発表した、野心的な宇宙ミッションを可能にする革新的先端コンセプト(NIAC)プログラムに選ばれ、現在フェーズIIに移行しているアイデアの1つである「パルス・プラズマ・ロケット(Pulse Plasma Rocket: PPR)」は、火星のような他の惑星への有人ミッションをより速く、より安全に実現する可能性があるとして期待されている。これの実現はまさに“ゲームチェンジ”であり、火星への到達に必要な旅行時間を大幅に短縮することを可能にするものだ。
現在の計画によれば、NASAは今後20年以内に火星への最初の有人ミッションを送ることを目指しており、化学的および電気的推進の形式を組み合わせたハイブリッド推進能力を備えた居住空間のような宇宙船を使用する予定である。そこで登場するのが、アリゾナ州スコッツデールに拠点を置く宇宙技術開発会社、Howe Industriesが開発を行っている、「パルス・プラズマ・ロケット(Pulse Plasma Rocket: PPR)」だ。
2年かかる火星旅行が2か月にまで短縮
Howe Industriesの「パルス・プラズマ・ロケット(PPR)」は、現在の深宇宙推進方法よりもはるかに効率的に設計された推進システムであり、地球と赤い惑星の間をわずか2ヶ月で移動することを可能にする。
PPRは、核分裂を利用した原子力発電システムを用いて、パルスサイクルの間に燃料発射体を固体からプラズマへと急速に相変化させ、これを推力として利用するシステムだ。推力となるプラズマバーストを発生させるために、高減速低濃縮ウラン(LEU)発射体を非減速LEUバレルと組み合わせて使用し、発射体を優先的に加熱する。バレル基部の高濃縮ウラン(HEU)の短い部分は、新しい制御ドラム機構とともに、制御された急速な中性子集団成長を可能にし、ほんの数秒でプラズマ状態に移行する。
この技術は元々、液体リチウムシース内で核融合ターゲットを圧縮するための改良型zピンチ装置を使用するパルス核融合(PuFF)コンセプトの派生技術である。
Howe Industriesによれば、PPRは最大100,000 Nの推力と5,000秒の比推力を生成することができる。この性能は、有人および貨物ミッションのために必要な速度に達するための最適な性能を提供するものである。
「このシステムの高い効率性により、火星への有人ミッションをわずか2か月で完了することができます。銀河宇宙線からの防護装置を備えたはるかに重い宇宙船の輸送も可能にし、乗組員の被ばくを無視できるレベルまで減少させることを可能にします」と、Howe Industriesは述べている。
PPRはまた、火星を遥かに超えたミッションを実現する可能性もあり、550天文単位(1天文単位は地球と太陽の間の距離、550天文単位は約82280km)まで運ぶことができると言う。このような能力は、小惑星帯や太陽によって生成される重力レンズ効果が観測天文学の新しいフロンティアを開く可能性のある宇宙の場所への将来の探査を可能にするかもしれない。
太陽を“レンズ”にした望遠鏡も可能に
当面の焦点は、現在の推進システムが可能にするよりもはるかに小さな時間スケールで、より重量のある火星への有人ミッションを推進するためにどのように使用できるかということだが、NASAはPPRの高速・長距離移動の可能性が可能にする1つのミッションとして、太陽から550天文単位の距離に装置を設置し、太陽を巨大な望遠鏡として使うアイデアを提示している。これは、一般相対性理論から導き出される「重力レンズ効果」を用いたものだ。
一般相対性理論が暗示するように、宇宙の巨大な物体は時空を曲げ、光の進路を変える。
巨大な物体をレンズとして使えば、その物体の向こう側からの光を見ることができる。これは抽象的なアイデアではなく、既にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などが、銀河の重力を用いて更に遠くの宇宙を覗くなど、ごく普通に行っている。制限事項は、背後にある天体にしか適用出来ない事だ。
だが、太陽を重力レンズとして利用する事が出来れば、状況は大きく変わる。
この概念を最初に提唱したVon Russel Eshlemanは、「太陽の重力場は、半無限焦点線に沿って遠方天体からの放射強度を拡大する球面レンズとして働く。その線上にある宇宙船は、原理的には恒星間距離の観測、盗聴、通信が可能である。コロナ効果を無視すれば、コヒーレント放射の最大拡大率は波長に反比例し、1ミリメートルで1億倍である」と、述べている。
このようなミッションにはまだ天文学的な課題が残っているが(重力レンズによってもたらされる大きな歪みや、興味のある背後の天体を観測するために宇宙船を膨大な距離移動させることなど)、これが可能になれば、遥か遠方の惑星の表面をのぞき込むことすら可能になるのだ。
さて、PPRに話を戻そう。Howe Industriesはエンジン設計をさらに改良し、効率を向上させ、質量を削減することを計画しており、火星への有人ミッションのための概念実証実験を完了する予定である。
すべてが計画通りに進めば、Howe Industriesの理論的設計は、実世界での応用に一歩近づき、人類が真の宇宙航行文明へと進む速度を大幅に加速させる可能性がある。
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