人工知能(AI)技術の急速な発展に伴い、その膨大な計算処理能力を支えるインフラ整備が世界的な課題となっている。この潮流の中、日本のテクノロジー企業も動き出した。米半導体大手NVIDIAが出資する日本のクラウドゲームサービス企業、Ubitus(ユビタス)が、新たな生成AI向けデータセンターの建設計画を明らかにしたのだ。
Ubitusの原発の電力を求めた新AIデータセンター計画
Ubitusの郭栄昌最高経営責任者(CEO)は、Bloombergのインタビューで、同社が生成AI向けデータセンターの新設のために土地を探していることを明かした。注目すべきは、その立地条件だ。同社は京都府、島根県、九州地方を候補地として挙げており、いずれも原子力発電所が近隣に存在する地域である。
「最低でも2万〜3万平方メートルの土地が必要で、来年3月末までをめどに選定する」と郭CEOは語る。新設されるデータセンターの受電容量は当初3メガワット程度で、段階的に増強し、将来的には50メガワット超まで拡大する計画だという。
この動きは、AIの発展とそれを支えるインフラ整備の課題が、日本企業にも及んでいることを如実に示している。Ubitusの決断は、AIの未来と電力供給の問題が密接に結びついていることを浮き彫りにしたと言えるだろう。
原発近くの立地を選ぶ理由:効率と安定性の追求
Ubitusが原子力発電所近くの立地を検討している背景には、生成AIの膨大な電力需要がある。同社はすでに東京と大阪でクラウドゲーム用のコンピューターサーバーを運用しているが、生成AI向けのデータセンターはさらに大きな電力を必要とする。
郭CEOは原発を「最も効率的で、安く、安定した電力でAI向けに適している」と評価する。この見解は、生成AIの心臓部とも言えるNVIDIAの画像処理半導体(GPU)が消費する莫大な電力量を考慮したものだ。
原発近くへの立地には、送電による電力損失を最小限に抑えるという利点もある。「他により優れた、効率的で安価なエネルギーがない限り、原子力は依然としてコストと供給規模の面で最も競争力のある選択肢です」と郭CEOは述べている。
しかし、この戦略には課題も存在する。日本では2011年の福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電の再稼働が慎重に進められており、利用可能な原発は限られている。国内で運転可能な33基のうち、再稼働済みはわずか12基に留まっている。この現状は、UBITUSの計画に影響を与える可能性がある。
それでも、AIの発展を見据えた同社の決断は、エネルギー供給と技術革新のジレンマに一石を投じるものとして注目される。
世界のIT巨人も原子力に注目
Ubitusの動きは、実は世界的なトレンドの一端を担っている。Amazon、Microsoft、Googleといった大手IT企業の間でも、原子力による電源確保に向けた動きが急激に活発化しているのだ。
例えば、AmazonのAWSは今年、Talen Energyのデータセンターキャンパスをペンシルベニア州のサスケハナ蒸気発電所原子力発電所の隣接地で6億5000万ドルで買収した。このキャンパスは最大960MWの電力をサポートできるという。
Microsoftも、スリーマイル島原子力発電所の出力を100%購入する20年間の契約を結んだ。この契約は837MWという大規模なものだ。
さらに、Oracleの創業者Larry Ellison氏は、3基の小型モジュール炉(SMR)を備えた1GWのデータセンターキャンパスを建設する計画を明らかにしている。
Googleも最近、小型モジュール炉提供企業のKairos Powerと500MWの契約を締結。2030年までに6〜7基の原子炉の稼働を予定している。
これらの動きは、AI時代における膨大な電力需要と、それを支えるインフラ整備の重要性を如実に物語っている。Ubitusの決断は、日本企業がこのグローバルトレンドに追随し始めたことを示す象徴的な出来事と言えるだろう。
日本の原子力発電の現状:再稼働への道のりと課題
Ubitusの野心的な計画の実現には、日本の原子力発電を取り巻く複雑な現状が大きな影響を与える可能性がある。2011年の福島第一原子力発電所事故以降、日本の原子力政策は大きな転換を余儀なくされた。
現在、日本国内で運転可能な原子力発電所は33基存在する。しかし、再稼働を果たしているのはそのうちわずか12基に過ぎない。地域別に見ると、関西電力が7基、九州電力が4基、四国電力が1基となっている。
中国電力の島根原発2号機は12月の運転再開を予定しているが、依然として多くの原発が未稼働状態にある。この状況は、Tが候補地として挙げている京都府、島根県、九州地方の電力供給にも影響を与えている。
再稼働のプロセスは慎重に進められており、安全性の確保と地元の理解を得ることが不可欠となっている。この慎重なアプローチは、エネルギー政策の安定性と信頼性を高める一方で、AIデータセンターのような大規模な電力需要に対応する上での課題となっている。
Ubitusの計画は、こうした日本の原子力発電を取り巻く複雑な状況の中で、新たな可能性と課題を提示している。AIの発展と電力需要の増大が、日本のエネルギー政策にも新たな視点をもたらす可能性があるだろう。
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