米国エネルギー省(DOE)が、現在世界最速のスーパーコンピューターであるFrontierの後継機「Discovery」の開発計画を発表した。この新たなシステムは、Frontierの3〜5倍の処理能力を持つことが期待されており、2028年までの稼働を目指している。この野心的な計画は、スーパーコンピューター開発における国際競争の激化を反映しており、科学研究や国家安全保障に重要な役割を果たすことが見込まれている。
中国に対抗し世界最高性能のスーパーコンピューターを構築する「Discovery」プロジェクト
Discoveryプロジェクトは、テネシー州のオークリッジ国立研究所(ORNL)に設置される予定で、予算は5億ドルと見積もられている。DOEは2024年8月30日までに提案書の提出を求めており、2027年末から2028年初頭の納入を目指している。この厳しいスケジュールは、急速に進化するスーパーコンピューティング分野での米国の競争力維持を反映したものだ。
現在のFrontierが1.206エクサフロップスの処理能力を持つのに対し、Discoveryは理論上6.5エクサフロップスの性能を達成すると予想されている。この飛躍的な性能向上は、科学計算の分野に革命をもたらす可能性を秘めている。具体的には、より複雑で精密なシミュレーションが可能となり、これまで到達できなかった研究領域への扉を開くことが期待されている。
ORNLのコンピューティング・コンピューティングサイエンス研究所のGeorgia Tourassi所長は、Discoveryの潜在的な影響について次のように述べている:「Discoveryは、科学コミュニティが新しいレベルの詳細で現実世界をシミュレーションすることを可能にします。実験、観察、または理論だけでは容易に探索できない難しい問題の研究に役立つでしょう」。
ORNLのMatt Sieger氏はDiscoveryプロジェクトについて次のように述べている:「このプロジェクトは、Frontierよりもさらに高性能なものを構築し、可能性の限界を押し広げる技術を使用するため、非常にエキサイティングです」。
Discoveryの主な用途として、気候変動の影響予測、がん治療薬の開発加速、高エネルギー物理学データの解読、グリーンエネルギーソリューションの開発などが挙げられている。これらの分野は、複雑なデータ処理と高度なシミュレーションを必要とするため、Discoveryの超高速演算能力が大きな貢献をすると期待されている。さらに、人工知能や機械学習の高度な処理にも対応することで、これらの技術の発展にも寄与すると考えられている。
注目すべきは、Discoveryが電力効率の面でも大幅な改善を目指していることだ。過去10年間でORNLは計算能力を500倍に向上させる一方で、エネルギー消費は4倍にしか増加していない。この傾向をさらに推し進め、高性能と省エネルギーの両立を目指している。この取り組みは、増大するAIワークロードに対応するHPCシステムの電力消費問題に対する重要な解決策となる可能性がある。
この開発計画は、中国が未公開のスーパーコンピューターでFrontierを3〜4倍上回る性能を達成したとの噂が流れる中で発表された。Top 500の共同創設者Jack Dongarra氏は、Wall Street Journalの報道で「中国はより高速なマシンを持っている」と述べている。しかし、中国の「Sunway」と「Tianhe-3」スーパーコンピューターの詳細な性能情報は明らかにされていない。この状況は、スーパーコンピューター開発における米中の激しい競争を浮き彫りにしており、Discoveryプロジェクトの戦略的重要性を強調している。
Discoveryプロジェクトの実現に向けては、従来のシステムインテグレーターによる構築か、クラウドベースのソリューションが採用される可能性がある。HPEとその子会社Crayが有力候補と見られているが、MicrosoftやAWSなどのクラウドプロバイダーも参入する可能性がある。この選択は、単にハードウェアの性能だけでなく、柔軟性、スケーラビリティ、そして長期的な運用コストなども考慮に入れて行われると予想される。
Sources
- Oak Ridge National Laboratory: OLCF-6 Request for Proposals
- via The Register: Oak Ridge casts nets in search of Frontier supercomputer’s heir
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