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世界初:チタン製人工心臓を装着したまま退院した患者が105日間生存を達成

2025年3月17日

オーストラリアの40代男性が、BiVACOR社開発のチタン製完全人工心臓を使って105日間生存し、世界で初めて人工心臓を装着したまま退院したことが発表された。この革新的な磁気浮上技術は、深刻な心不全患者に新たな希望をもたらす可能性を示している。

人工心臓技術における画期的成功

オーストラリア・シドニーのセント・ビンセント病院で2024年11月22日、Paul Jansz医師率いるチームによって6時間にわたる手術が行われた。患者は集中治療室での数週間の経過観察を経て、2025年2月初旬に退院。これは、完全人工心臓を装着したまま病院を出た世界初のケースとなった。

「長年この瞬間に向けて取り組んできました。オーストラリアで初めてこの手術を行ったチームの一員であることを非常に誇りに思います」とJansz医師は述べている。

この患者は最終的に2025年3月6日にドナー心臓移植を受け、経過は良好だという。105日間という使用期間は、BiVACOR完全人工心臓(TAH)の装着から心臓移植までの世界最長記録となった。

この手術は、モナシュ大学主導の「Artificial Heart Frontiers Program」の一環として実施され、オーストラリア政府から5000万豪ドルの助成金を受けている。世界では6例目、米国外では初めての移植例だ。

革新的な磁気浮上チタン心臓技術

BiVACOR TAHは人工心臓設計における画期的革新だ。従来の人工心臓が血液を送り出すために可撓性ポリマーダイアフラムを使用するのに対し、BiVACOR TAHは電気機械式の回転血液ポンプを採用している。

最大の技術革新は、その単純な構造にある。たった一つのモーターと磁気浮上する単一のローターだけで、身体と肺の両方に血液を送り出す。「磁気浮上(MAGLEV)」技術により、ローターは物理的接触なしに懸架され、摩擦や機械的摩耗がない。

チタン製の650グラムの人工心臓は拳ほどの大きさで、女性や約12歳の子供の胸部にも適合するコンパクトさを実現している。そして、成人男性が運動中でも必要とする毎分12リットル以上の高流量を供給できる能力を持つ。

「BiVACOR TAHの独自の設計と機能は比類のない安全性プロファイルに変換され、何十年もの研究が実を結ぶのを見るのは興奮します」と、オーストラリア生まれの発明者でBiVACORの創設者兼最高技術責任者であるDaniel Timms博士は語る。

心不全治療における重要性

世界では年間2300万人以上が心不全に苦しんでいるが、ドナー心臓移植を受けられるのは約6000人だけだ。オーストラリアでも毎年約5000人が心不全で命を落としている。

セント・ビンセント病院の心不全・移植心臓専門医Chris Hayward教授は「BiVACOR TAHはオーストラリアと国際的な心臓移植に全く新しい展開をもたらします。今後10年以内に、人工心臓がドナー心臓を待てない患者や、ドナー心臓が単に入手できない場合の代替手段になるでしょう」と予測する。

一方、クィーンズランド大学のDavid Colquhoun教授は、この成功を「人工心臓の大きな技術的進歩」としながらも、現状では人工心臓の105日間の機能はドナー心臓の10年以上(3000日以上)に比べるとまだ「長い道のり」があると慎重な見方も示している。

人工心臓の未来

BiVACOR社の長期的な野心は、移植受付者が心臓移植なしで装置を装着したまま生活できるようにすることだ。実験室では、同様の設計が4年以上機能し続けており、その潜在的な耐久性を示している。

BiVACORの全人工心臓は現在商業販売されていないが、米国FDAの早期実現可能性研究(EFS)の拡大が承認されており、より多くの患者の参加が見込まれている。

モナシュ大学主導の「Artificial Heart Frontiers Program」は、今後3年間でこのオーストラリア発のテクノロジーをさらに発展させ、心不全の高度な形態に対する緊急に必要とされるソリューションを提供することを目指している。

オーストラリアでは今年中にさらに4台の装置が移植される予定であり、心臓病治療デバイス産業におけるオーストラリアの地位を確立する可能性を秘めている。


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