量子コンピューティングは、計算能力の飛躍的向上を約束する次世代技術として注目を集めているが、その実用化への道のりはまだ遠く、多くの技術的課題が残されている。そんな中、中性原子を用いた量子プロセッサの開発で注目を集めるQuEra Computingは、重要な進展を遂げている。今回、QuEraのQuantum Advocateを務めるPedro Lopes氏がポッドキャストインタビューの中で、量子コンピュータ開発の現状と展望について語っている。
量子コンピューティングの新地平を拓く
QuEra ComputingのQuantum Advocateを務めるPedro Lopes氏は、理論物理学の博士号を持ち、量子物質や位相物理学の研究に従事してきた。彼は量子コンピューティングの可能性を広く伝え、公共部門と民間部門のパートナーシップを構築し、ユーザーや開発者が量子技術に参入する最適なポイントを理解できるよう支援している。
QuEraの技術の核となるのは中性原子だが、Lopes氏はこれを物質の基本的な構成要素だと説明する。
「原子は通常、核(中心部分)と電子雲で構成されているため、私たちはこれを中性と呼んでいます。電子は帯電しており、核も帯電しています。反対の電荷が互いに引き合うので、それらは結合し、正確に中性になるまで結合します」。
Lopes氏によると、QuEraの中性原子ベースの量子プロセッサは、他の量子ビット実装に比べていくつかの利点を持っているという。最も重要な点は、スケーラビリティだ。超伝導量子ビットシステムでは、大規模な配線が必要であり、100万量子ビットのコンピュータを作るには数十億ドルのコストがかかる可能性がある。一方、中性原子システムでは、5〜10の電圧チャネルと5〜10のレーザービームで300〜400個の原子を制御できる。
中性原子システムのもう一つの利点は、原子が互いに「見える」のは制御された状態の時だけだということだ。これにより、量子ビットの分離が容易になる。また、2次元システムを目指すことができ、より多くの量子ビットを配置できる可能性があるという。
しかし、中性原子システムにも課題がある。その最大の問題は速度だ。超伝導システムと比べて100〜1000倍遅い可能性がある。しかし、Lopes氏は、5年以内に1万個以上の原子と100個程度の論理量子ビットを持つ中性原子量子コンピュータの運用が可能になると期待している。
QuEraは2023年12月、48個の論理量子ビットを使用したアルゴリズムの実行に成功したと発表した。これは量子コンピューティング分野における重要な進展だ。論理量子ビットは、物理的な量子ビットの集合体で構成され、エラー訂正を可能にする。現在の量子システムは、環境によって引き起こされるエラーに対して脆弱だ。99.5%の忠実度を持つ2量子ビット演算でも、100〜500回の演算の間にエラーが発生する可能性が高い。
量子エラー訂正は、システムに冗長性を持たせることで、ミスが発生したときに検出し、計算を継続する前に修正することを可能にする。QuEraの実験では、より大きなパッチ(より多くの物理的量子ビット)を使用するほど、エラー訂正の効果が高まることが示された。
Lopes氏によると、QuEraは2024年末までに10個程度の論理量子ビット、2025年末までに30個の論理量子ビット、2026年には100個の論理量子ビットを持つマシンの開発を目指しているという。エラー率は10-4から10-5の範囲を目標としている。これが実現すれば、10万〜100万ゲートの演算が可能になり、量子コンピューティングの実用化に向けて大きく前進することになる。
現在、量子コンピュータの主な用途は研究分野に限られているが、BMWやエネルギー企業、航空宇宙企業、銀行などの一般企業も量子コンピューティングの可能性に注目し始めている。特に、化学や材料科学の分野での応用が期待されている。また、金融業界やバイオテクノロジー分野でも、量子コンピューティングの活用が検討されている。
Lopes氏は、量子コンピューティングの進展には業界全体の協力が不可欠だと強調する。超伝導量子ビットやイオントラップなど、他の技術基盤からも多くを学んでいるという。
最後に、Lopes氏は自身のブログ「Set Physics to Stun」について言及した。このブログでは、科学的な環境をより機能的で平等なものにするための管理実践について議論している。また、基礎物理学のトピックスを取り上げ、一般の人々に物理学の面白さを伝える取り組みも行っている。
量子コンピューティングは、まだ多くの課題を抱えているが、QuEraのような企業の取り組みにより、着実に進歩を遂げている。今後数年間で、量子コンピューティングが実用化段階に入る可能性は高く、その影響は計り知れない。産業界や学術界は、この革新的な技術の発展を注視し、その潜在的な応用について積極的に探求していく必要がある。
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