我々が一般的に使用しているコンピューティングデバイスに使用されているDRAMは、高速ではあるが、揮発性でもあるため、電源を切るとデータを保持できなくなる性質がある。そのため、データ・ストレージとしては使い物にならない。一方、一般的にデータ・ストレージとして用いられるNANDフラッシュは不揮発性なので、常時電源を必要とせずにデータを保持できるが、DRAMほど高速ではない。もしもこの両方の性質を備えた、“超高速な転送速度”を持ち、“電力なしでもデータを保持出来る”メモリが実現すれば、まさにそれは夢のメモリとなるだろう。そんな夢のメモリの開発に、韓国科学技術院(KAIST)の研究者らが成功したという。
KAISTの研究チームは、相変化メモリ(Phase-change memory: PCM)を用いた新しいメモリ・ソリューションに関する研究成果を発表した。相変化メモリは、結晶化(抵抗が低い)状態とアモルファス(抵抗が高い)状態の2つの物理的状態を移行することで機能する。これまでにも相変化メモリの開発自体は行われているが、消費電力と製造コストがネックとなっていた。相変化材料をアモルファス状態に溶かすには熱が必要で、この消費電力が問題なのだ。
これまでの研究では、最先端のリソグラフィ技術によってデバイス全体の物理的サイズを縮小することに重点が置かれていた。だが、このアプローチによる改善はわずかで、微細化に伴うコストと複雑さの増加は正当化できなかった。今回KAISTの研究者らは、相変化を微小領域に集中させることで、これらの問題を解決したと主張している。
KAISTのShinhyun Choi教授と研究チームは、相変化プロセスに直接関与する部品のみを収縮させ、相変化可能なナノフィラメントを作成する方法を考案した。研究者らによると、新方式で作られた相変化メモリは、これまでのものに比べて消費電力が最大15倍も低いという。同時に、製造コストもリーズナブルとのことだ。加えて、高速性、大きなオン/オフ比、小さなばらつき、多値メモリ特性など、従来のメモリの多くの特性を保持しており、夢のメモリの実現につながるブレークスルーとなる可能性がある。
Choi教授は、今回の研究成果が将来の電子工学の基礎になることを期待しており、高密度3D垂直メモリ、ニューロモーフィック・コンピューティング・システム、エッジ・プロセッサ、インメモリ・コンピューティング・システムなどのアプリケーションに役立つ可能性があると述べた。
論文
参考文献
研究の要旨
相変化メモリ(PCM)は、その低レイテンシ、不揮発性メモリ特性、高集積密度により、フォン・ノイマンのボトルネックを解決する有望な候補と考えられてきた。しかし、PCMは通常、相変化材料をアモルファス相に溶融させるリセット処理に大電流を必要とするため、エネルギー効率が悪化する。デバイスの寸法を最小化することで動作電流を低減する様々な研究が行われているが、これは製造コストを増加させる一方で、リセット電流の低減には限界がある7。ここでは、相変化可能なSiTexナノフィラメントを形成することで、PCMのリセット電流を低減するデバイスを示す。製造コストを犠牲にすることなく、開発したナノフィラメントPCMは超低リセット電流(約10μA)を達成し、これは高度にスケーリングされた従来のPCMよりも約1~2桁小さい。このデバイスは、大きなオン/オフ比、高速性、小さなばらつき、多値メモリ特性といった好ましいメモリ特性を維持している。この発見は、ニューロモーフィック・コンピューティング・システム、エッジ・プロセッサ、インメモリ・コンピューティング・システム、さらには従来のメモリ・アプリケーションのための新しいコンピューティング・パラダイムを開発するための重要な一歩である。
コメント