核融合発電と同様に、常に「実用化まであと20年」と言われ続けてきた宇宙太陽光発電。この未来技術が、ついに実証実験の段階を迎えようとしている。
革新的な小規模アプローチ
電子取引プラットフォームRobinhoodの共同創業者であるBaiju Bhatt氏が立ち上げた新会社Aetherfluxは、約1年後には最初の実証実験を開始すると発表した。従来の宇宙太陽光発電は、地球から36,000km上空の静止軌道に巨大な衛星を設置する構想が主流であった。欧州宇宙機関(ESA)の試算によれば、ヨーロッパの電力需要の3分分の1を賄うためには数千億ドル規模の投資が必要とされていた。
地上の気象条件に左右されない宇宙空間での太陽光発電はまさに夢の技術であるが、そのハードルは高い。
「巨大な衛星を静止軌道に設置するようなアプローチは、私の創造力を超えています。それが、この構想が実現しなかった理由の一つだと思います」とBhatt氏はArs Technicaに語る。
Aetherfluxが提案する手法は、従来とは大きく異なる。同社は約1,000万ドルの初期投資で、高度500kmの低軌道に小型の実証衛星を打ち上げる計画を進めている。この衛星は市販の衛星バスをベースに、平均して1キロワット程度の発電能力を持つ。
同社の実証衛星は、高出力赤外線レーザーを使用して地上の直径10メートルの受信施設に電力を送る計画だ。計画では、今後12 ~ 15か月以内に「キロワット級」の太陽光発電宇宙船を打ち上げる予定だという。主な目標は、このシステムが安全かつ効率的に機能することを証明することだ。
段階的な実用化へのロードマップ
実証実験が成功すれば、Aetherfluxは低軌道衛星のコンステレーションを展開し、連続的な電力供給を目指す考えだ。当初のターゲットは、災害地域、遠隔地の採掘現場、軍事基地といった送電網から離れた場所への電力供給となる。
「この事業モデルが成功すれば、貨物船への給電など、より広い用途への展開も可能になります」とBhatt氏は展望を語る。長期的には、地上の太陽光・風力発電を補完するベース電源としての活用も視野に入れている。
ただし、大気圏を通過する高出力レーザーの環境への影響や、天文学者が懸念する光害問題など、課題も残されている。また、事業の拡大には更なる大規模な投資も必要となるだろう。
なお、宇宙からの太陽エネルギー伝送に挑戦するのはAetherfluxだけではない。スタートアップのReflect Orbitalは、小型の反射衛星群を使用して地上の太陽光発電所に直接太陽光を反射させる、より直接的なアプローチを提案している。
宇宙太陽光発電は、これまで理論上は可能でも実現は困難とされてきた。しかし、この低コストな実証実験により、その実現可能性がついに検証されることになる。
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