ESAの宇宙望遠鏡GAIAが、天の川銀河の中でこれまで発見された中で最も巨大な恒星ブラックホールを発見した。その大きさは太陽の33倍の質量を持ち、地球から“わずか”1926光年しか離れていないのだ。
ブラックホールには、銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールと、大質量星の寿命を終わらせる超新星爆発によって形成された恒星質量のものがある。後者のブラックホールは、星の寿命と超新星爆発で多くの質量が放出されたため、元となった星よりも質量がかなり小さい。
我々の住むこの天の川銀河には、このような恒星ブラックホールが間違いなく数え切れないほど潜んでいる。ただ、見えないだけなのだ。そのうちの一部のブラックホールは、元々属していた連星系の一部の星を飲み込むことなく、自身の周りを星が回り続ける形となり、その存在を我々に知らせてくれるのだ。
恒星が定期的に瞬く様が観測される場合、それは他の物体の重力が恒星に影響を与えていることを意味する。時には、私たちが見ることのできないもっと暗い星、あるいは惑星であることもあるが、中には計算してみると、通常ではあり得ない数値が出ることがある。例えば恒星2MASS J19391872+1455542を11.6年周回させている天体は、巨大な惑星の更に何千倍もの質量を持っている。もしそれが恒星であれば、肉眼で見ることができるだろう。だが、見ることは出来ない。それはなぜか?それがブラックホールだからだろうと言うのが天文学者らの見解だ。
このブラックホールは、我々の銀河系でこれまで知られている最大の爆発の残骸である「はくちょう座X-1」より50パーセントほど大きい。
この発見は、星の動きを驚異的な精度で追跡するガイア望遠鏡のデータを調べることによってなされた。この種の探索がこのような発見につながったのは3度目で、この天体は「Gaia BH3」と呼ばれている。巨大な質量を持つだけでなく、Gaia BH3は2000光年先のわし座にある。
パリ天文台のPasquale Panuzzo氏は声明の中で、「これまで発見されていなかった高質量ブラックホールが近くに潜んでいるとは誰も予想していませんでした。これは研究人生で一度きりの大発見です」と、述べている。
ガイアの観測だけでは何か他の原因があるかもしれないが、大規模な国際チームが欧州南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)を使って測定値を確認し、さらに多くのことを明らかにした。
もしこのような天体が我々の銀河系内で見過ごされるのであれば、他の場所での存在については何もわからないだろうと思うかもしれない。驚くべきことに、それは間違っている。重力波は、数十億光年彼方にあるさらに大きな恒星ブラックホールの存在を我々に知らせている。しかし、これは軌道が崩壊した2つの天体が衝突した場合にのみ機能するため、非常に稀なケースである。
予想をはるかに超えるこのような大きなブラックホールについて、天文学者たちの作業仮説は、非常に金属に乏しい星、つまりビッグバンで生成された水素とヘリウムだけで形成された星から生まれるというものだ。そのような星は、現代の宇宙に存在する星よりもはるかに巨大になる可能性があった。このような星は、現代の宇宙よりもはるかに大きな質量を持つ可能性があった。また、恒星風によって失われる質量が少なく、その質量をブラックホール形成に温存できると考えられている。
この考え方は理にかなっているが、重力波によって検出されたブラックホールを使って証明することはできない。それがGaia BH3によって変わった。連星系の恒星は通常、似たような組成を持つが、それは一緒に形成されなかった稀なケースや、一方の恒星が惑星を食べ、その惑星の金属含有量が顕著に増加したような、やや一般的なケースを除けば、である。
VLTの紫外・可視エシェル分光器を使って、Elisabetta Caffau博士と共著者たちは、J19391872+1455542が確かに非常に金属に乏しいことを確認した。J19391872+1455542は、金属に乏しい星としては非常に古い星であり、太陽の4分の3の質量を持つにもかかわらず、赤色巨星に変わるプロセスを始めている。
Gaia BH3の完全な分析は、少なくとも2025年後半まで行われる予定だが、今回の発見を担当したチームは、他の天文学者にも自分たちの目で見てもらい、より多くのことを知る機会を最大限に増やしたいと考えていた。
論文
- Astronomy & Astrophysics: Discovery of a dormant 33 solar-mass black hole in pre-release Gaia astrometry
参考文献
研究の要旨
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