月面に巨大な「街灯」が建設される日が近づいているかもしれない。米国防高等研究計画局(DARPA)が、月面に自由の女神像よりも高い330フィート(約100メートル)の巨大な塔を建設する計画を支援していることが明らかになった。この野心的な構想は、将来の月面基地に電力と通信を提供し、2週間に及ぶ長い月の夜を明るく照らすことを目指したものだ。
月面インフラの未来:LUNARSABERプロジェクト
DARPAは、月面探査の新時代を切り開くために、10年間の月面アーキテクチャ能力研究(LunA-10)の一環として複数のプロジェクトに資金を提供している。その中でも特に注目を集めているのが、Honeybee Robotics社が提案する「LUNARSABER」(Lunar Utility Navigation with Advanced Remote Sensing and Autonomous Beaming for Energy Redistribution)と呼ばれるプロジェクトだ。
LUNARSABERは、単なる照明装置ではなく、多機能なインフラとしての役割を果たすことが期待されている。Honeybee Roboticsの主任研究員であるVishnu Sanigepalli氏は、「LUNARSABERは、いわばスイスアーミーナイフのようなものです。高い適応性と汎用性を持ち、カスタマイズも可能です」と説明している。
この巨大な塔の主な機能は、電力供給、照明、通信、観測だ。塔の上部に設置された太陽光パネルは、月の昼間(地球時間で約2週間)にエネルギーを蓄え、月の夜間に使用する。また、強力な投光器で月の長い夜を照らし、月面活動を支援する。さらに、塔の高さを利用して広範囲にわたる通信ネットワークを構築し、最大0.9トンの科学機器を搭載して月面の観測や研究に活用する計画だ。
LUNARSABERの革新的な点は、その建設方法にもある。Honeybee Roboticsは、このために、「DIABLO」と呼ばれる独自のシステムを開発した。これは、巻かれた金属帯を円筒形の塔に成形する自動化システムで、宇宙船は塔の基部だけを月面に運べば良いという。この技術により、従来は不可能だった大規模な月面構造物の建設が実現可能になるかもしれない。
LUNARSABERプロジェクトの重要性は、月面での人類の活動を支える包括的なインフラとなる可能性にある。複数の塔を月面の異なる場所に配置することで、月の初めての電力網を構築することができる。これにより、月面車両や他のインフラに安定した電力を供給することが可能になる。また、常に地球が見える位置に塔を設置すれば、月のどの地域からでも地球との通信を維持することができる。
このプロジェクトは、NASAのアルテミス計画や他国の月面探査計画と連携して進められる可能性がある。2025年に月周回、2026年に月面着陸、2028年にゲートウェイ月軌道ステーションとのドッキングを予定しているアルテミス計画にとって、LUNARSABERは重要なインフラとなる可能性が高い。
しかし、LUNARSABERだけが月面建設プロジェクトではない。月面原子力発電所、データセンター、3Dプリントで作られた住居、レーザーで溶かした道路、鉄道路線、さらには月の統一時間帯など、さまざまなアイデアが提案されている。これらのプロジェクトは、月面での持続可能な人類の存在を可能にするための包括的なアプローチの一部となる可能性がある。
LUNARSABERプロジェクトは、まだ初期段階にあるが、月面探査の新時代を切り開く大きな可能性を秘めている。この巨大な「街灯」が月面で輝く日が来れば、それは人類の宇宙進出における重要な一歩となるだろう。月は単なる探査の対象から、人類の活動の場へと変貌を遂げようとしている。LUNARSABERのような革新的なプロジェクトが、その変革を加速させる可能性がある。
Source
- Honeybee Robotics: Honeybee Robotics to Develop LUNARSABER for DARPA’s LunA-10 Program
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