フランスの大手ゲーム開発・販売会社Ubisoftが、中国のテクノロジー巨人Tencentと創業家Guillemot一族による買収の可能性に直面している。この報道を受け、Ubisoftの株価が急騰する一方で、同社の将来に不透明感が漂っている。
Ubisoftの窮地と買収計画の全容
Ubisoftの株価が33.5%も急騰したのは、同社の買収に関する報道が発端だった。Bloombergの報道によると、TencentとUbisoft創業家のGuillemot一族が、同社の買収を検討しているという。この動きは、Ubisoftの株価が今年に入って50%以上下落し、時価総額が15億ドルにまで落ち込んだことを受けてのものだ。
買収計画の背景には、Ubisoftが直面する深刻な経営危機がある。同社の人気フランチャイズ『アサシンクリード』シリーズの最新作『アサシン クリード シャドウズ』の発売が2025年2月14日まで3ヶ月延期されたほか、8月に発売された『スター・ウォーズ 無法者たち』の売上が期待を下回ったことが明らかになっている。
これらの要因により、Ubisoftは2025年度の純予約額の見通しを19.5億ユーロに下方修正。これは前年度の23.2億ユーロを大きく下回る数字だ。さらに、他のゲームタイトルの開発遅延も重なり、投資家の間でUbisoftの経営能力に対する懸念が高まっている。
TencentはすでにUbisoftの株式約10%を保有しており、Guillemot一族は議決権の20%を握っている。両者が手を組めば、Ubisoftを非公開企業化する可能性も浮上している。
買収実現の影響と業界の反応
Ubisoftの買収が実現すれば、ゲーム業界に大きな影響を与える可能性がある。同社は『アサシンクリード』シリーズや『レインボーシックス シージ』など、多くの人気フランチャイズを抱えており、これらのIPの行方に注目が集まっている。
特に『アサシンクリード』シリーズは、前作の『アサシンクリード ヴァルハラ』が2020年時点で2000万人以上のプレイヤーを獲得し、10億ドル以上の収益を上げるなど、Ubisoftの看板タイトルとなっている。買収後もこれらの人気シリーズが継続して開発されるのか、あるいは新たな方向性を模索するのか、ファンの間で関心が高まっている。
一方で、業界全体の成長が鈍化している中でのこの買収劇には、慎重な見方も出ている。調査会社Newzooによると、2024年のグローバルゲーム市場の成長率は前年比2.1%にとどまる見通しだ。これは、コロナ禍で急成長した2020年、2021年と比べると大幅な減速となる。
Peel Huntのテクノロジーリサーチアナリスト、James Lockyer氏は、「選択肢の増加と生活費の圧迫により、消費者の支出が分散し、ゲームの収益とROI(投資収益率)が期待を下回ることが多い」と指摘している。
Xenospectrum’s Take
Ubisoftの買収計画は、ゲーム業界の構造的な変化を反映している。大手パブリッシャーが直面する課題は、単に個別タイトルの成功や失敗だけでなく、ゲーム市場全体の変容にも起因している。
特に注目すべきは、ゲーマーの消費行動の変化だ。新作タイトルへの支出よりも、既存のゲームにより多くの時間とリソースを費やす傾向が強まっている。これは、ゲーム・アズ・ア・サービス(GaaS)モデルの台頭と、高品質な無料プレイ(F2P)タイトルの増加が背景にある。
Ubisoftの買収が実現すれば、Tencentのモバイルゲーム開発のノウハウと、Ubisoftの強力なIPポートフォリオが融合する可能性がある。これにより、『アサシンクリード』や『レインボーシックス』といった人気フランチャイズのモバイル展開が加速する可能性が高い。
一方で、この買収には文化的な課題も存在する。西洋のゲーム開発文化と中国のビジネスモデルの融合がスムーズに進むかどうかは未知数だ。また、地政学的な観点からも、中国企業による西側のメジャーゲーム会社の買収には、規制当局の厳しい審査が予想される。
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