山の反対側にある2つの町を想像してみましょう。この2つの町の人々は、互いに行き来するために山をぐるりと一周しなければならないですね。ですが、もっと早くたどり着きたいなら、山をまっすぐ貫くトンネルを掘って近道を作ればいいでしょう。まさにそれが「ワームホール」なのです。
ワームホールは、宇宙の遠く離れた2つの地点の間にあるトンネルのようなもので、ある地点から別の地点への移動時間を短縮することができます。ある銀河から別の銀河へ何百万年もかけて移動する代わりに、適切な条件下では、理論的にはワームホールを使って移動時間を数時間から数分に短縮することができるのです。
ワームホールは時空を超える近道であるため、タイムマシンのような働きをすることもあります。ワームホールの一方の端から、もう一方の端に入った時よりも早い時間に出てくるかもしれません。
しかし、私のような宇宙物理学者が空間と時間について考える上で、ワームホールは良いツールになります。また、宇宙がどのような姿をしているかという古くからの疑問にも答えてくれるかもしれません。
現実にある?それとも想像上の存在?
このような興味深い特徴から、多くのSF作家が小説や映画でワームホールを使っていまする。しかし、作家と同じように、科学者もワームホールのアイデアに魅了されているのです。
私たちの宇宙ではワームホールは見つかっていませんが、科学者は重要な物理方程式の解の中にワームホールが記述されているのをよく見かけます。最も顕著なのは、アインシュタインの時空理論や一般相対性理論を支える方程式の解にワームホールが含まれていることです。この理論は、宇宙の形や、星、惑星、その他の物体が宇宙をどのように移動するかを記述しています。アインシュタインの理論は何度も何度も検証され、その度に正しいことが分かっているので、宇宙のどこかにワームホールが存在すると予想する科学者もいます。
しかし、他の科学者は、ワームホールは不安定であるため、存在するはずがないと考えています。
重力は、地球を含む宇宙のすべての物体に影響を与えます。ですから、ワームホールにも重力が作用するのです。ワームホールに懐疑的な科学者たちは、ワームホールの内側から外側に押し出す力がない限り、しばらくするとワームホールの真ん中が重力で崩壊すると考えています。そのためには、「負のエネルギー」と呼ばれるものを使って、重力に対抗し、ワームホールを安定させることが最も可能性が高いと思われます。
しかし、科学者が知る限り、負のエネルギーはワームホール自身の重力に対抗するにはあまりにも少量しか作ることができません。つまり、宇宙の始まりにビッグバンで作られた小さな小さなワームホールに、少量の負のエネルギーが含まれていて、それが宇宙の膨張とともに広がっていった可能性があるのです。
ブラックホールと同じもの?
ワームホールについて考えることは興味深いことですが、主流の科学ではまだ受け入れられていません。私たち宇宙物理学者が宇宙にたくさんあることを知っているブラックホールは、1910年代に科学者が初めてその存在を示唆したときには受け入れられなかったのです。
アインシュタインは1915年に有名な場の方程式を初めて定式化し、ドイツの科学者カール・シュヴァルツシルトはわずか1年後にブラックホールを数学的に記述する方法を発見したのです。しかし、その記述のあまりの特異さに、当時の有力科学者たちは、ブラックホールが自然界に存在することを信じようとしませんでした。ブラックホールという言葉も1967年になってから作られました。
ワームホールも同じようなことが起こるかもしれません。ワームホールが存在しうるかどうかについて、科学者がコンセンサスを得るには少し時間がかかるかもしれません。しかし、もしワームホールの存在を示す強力な証拠が見つかったら、それは星の軌道の奇妙な動きを調べることで可能になるかもしれませんが、その発見は科学者の宇宙の見方や理解の仕方を形作ることになるでしょう。
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