天文学と天文台の歴史は、天文学者たちが宇宙のより良い眺めを得るために、より高いところへ、より高いところへと登っていったという物語でいっぱいだ。地球上では、チリのアタカマ砂漠などが最高の場所だ。そこで、東京大学アタカマ天文台(TAO)は、チャナントール山の頂上という高所に天文台を開設した。
4月30日に完成したこのユニークな天文台は、海抜5,640メートルに位置し、世界で最も高い場所にある天文台である。世界で最も乾燥した地域のひとつに位置するこの場所を利用して、惑星形成領域、進化する銀河、そして宇宙史の最も古い時代をより詳しく観察することを目的としている。
「この高さと乾燥した環境のおかげで、TAOは中間赤外線の波長をはっきりと見ることができる世界で唯一の地上望遠鏡となる。このスペクトルの領域は、惑星形成領域を含む恒星周辺の環境を研究するのに非常に適しています」と、天文学教育研究センターアタカマ観測所の所長であり、天文台の建設に携わった宮田隆志教授は語った。
このような高所に天文台を建設することは、天文学者に素晴らしい眺望をもたらすかもしれないが、同時に作業しにくい場所でもある。そのため、天文台を安全に建設するために、大学は地元の人々と緊密に協力した。非常に悪条件の中で人命が危険にさらされることを避けるため、可能な限り遠隔操作で運営される。
なぜ中間赤外線天文台なのか?
宇宙の天体や事象は、電磁スペクトル全域にわたって光を放出している。地球上では、その光の多くを検出できるが、すべてではない。例えば、地球の大気は赤外線の多くの波長を吸収する。そのため、望遠鏡を高い位置に設置すればするほど、より多くの赤外線を「見る」ことができる。天文学者がJWSTで行ったように)宇宙へ行くことは素晴らしいことであり、そこで多くのことが達成される。しかし、天文学者は、乾燥していて大気が薄い高高度で、非常に多くの優れた天文学を行うことができる。
中間赤外線は、電磁スペクトルの中でも特に興味深い「領域」である。この領域では、小惑星や惑星などの天体を「見る」ことができる。小惑星や惑星は、恒星からの熱を中間赤外線で再放射している。同じことが星の周りの塵でも起こる。塵は温められ、中間赤外線を再放射する。原始惑星系円盤と呼ばれる、生まれたばかりの星の周りにある物質の円盤は、赤外線を放射している。これらの円盤は新しい惑星が形成される場所であるため、赤外線で見ることで、惑星の進化についてより詳しく知ることができる。
遠方銀河の中間赤外線観測は、銀河の形成史や星形成速度についての洞察を与えてくれる。さらに、この波長域は、活動銀河核の活動や存在を知る窓を開いてくれる。さらに、中間赤外線による宇宙の観測は、天文学者に多くのことを教えてくれる。
TAOのスペック
TAOプロジェクトのリーダーであり主任研究者である吉井譲名誉教授によれば、この新しい天文台は、研究する波長ごとにユニークな洞察を与えてくれるはずだという。「ダークエネルギーや原始的な最初の星など、宇宙の謎の解明を目指しています。そのためには、TAOだけが可能にする方法で空を見る必要があります」。
TAOの心臓部は6.5mの鏡で、入射した光を特殊な観測装置に送り込む。同時観測型広視野赤外多天体分光器(SWIMS)は、空の広い範囲を観測し、同時に2つの波長の光を観測することができる。もうひとつは、中間赤外線多視野撮像装置(MIMIZUKU)だ。これは宇宙の塵の多い領域を覗くものである。この2つの観測装置によって、天文学者は銀河やその他の宇宙の構造に関するさまざまな情報を効率的に収集することが可能となる。
「SWIMSの観測データを解析することで、銀河の中心にある超巨大ブラックホールの進化を含め、銀河の形成に関する知見が得られるでしょう。新しい望遠鏡や観測装置は、当然天文学の発展に貢献します。次世代の天文学者がTAOや他の地上望遠鏡、宇宙望遠鏡を使い、現在の理解を覆すような思いがけない発見をしたり、説明のつかないことを説明したりすることを願っています」と、と小西真広助教は語る。
Sources
- TAO Project
- University of Tokyo: World’s highest observatory explores the universe
この記事は、CAROLYN COLLINS PETERSEN氏によって執筆され、Universe Todayに掲載されたものを、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)に則り、翻訳・転載したものです。元記事はこちらからお読み頂けます。
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