人材獲得のために巨額が費やされるのはスポーツだけではない。特に過熱気味のAI業界では日本では信じられないような巨費が投じられ、人材獲得競争が繰り広げられている。今回Googleが1人のAI研究者を再雇用するために、驚異的な金額を投じたことが明らかになったのだ。この動きは、AI開発競争が熾烈化する中、優秀な人材の確保がいかに重要視されているかを如実に示している。
27億ドルの大型投資の舞台裏
Googleは、元従業員のNoam Shazeer氏を再雇用するために、約27億ドル(約4,000億円)を投じたことがWall Street Journal紙によって報じられている。この金額は、表向きはShazeer氏が共同創業したAIスタートアップ「Character.AI」の技術ライセンス契約のためとされているが、Googleの内部では、Shazeer氏の復帰が主な目的だったと広く見られている。
Character.AIは、ユーザーが架空のキャラクターや有名人を模したチャットボットと対話できるプラットフォームを開発。2023年には10億ドルの評価額を達成し、月間アクティブユーザー数は2,000万人を超えるまでに成長していた。
この取引により、Shazeer氏はCharacter.AIの持ち分から数億ドルを手にしたとされる。これは、会社を売却せずに創業者が受け取る金額としては異例の高額だ。
スタンフォード大学人工知能研究所のディレクター、Christopher Manning氏は「Noamがこの分野で優れた人物であることは明らかだ」としながらも、「他の人の20倍も優れているのだろうか?」と疑問を呈している。
AI界の天才、Noam Shazeerとは
48歳のShazeer氏は、2000年にGoogleに入社した初期の従業員の1人だ。彼の最初の大きなプロジェクトは、検索エンジンのスペルチェック機能を改善するシステムの構築だった。
2017年、Shazeer氏はGoogle社内で同僚のDaniel De Freitas氏とともに、幅広い話題について人間と対話できるチャットボット「Meena」を開発。Shazeerは、Meenaが将来的にGoogleの検索エンジンに取って代わる可能性があると自信を持っていたという。
しかし、Googleの経営陣は安全性と公平性の懸念から、Meenaの一般公開が危険すぎると判断。この決定に失望したShazeer氏は2021年にGoogleを去り、Character.AIを立ち上げた。
皮肉なことに、OpenAIが2022年にChatGPTをリリースしたことで、Googleの慎重すぎる判断が大きな機会損失につながったことが浮き彫りになった。そして今回、去ったはずのShazeer氏の再雇用に至ったわけで、逆に高い買い物になったと言えなくもない。
Googleの今回の動きは、AI時代における優秀な人材の重要性を如実に示している。OpenAIなどの競合他社は、有望な人材に5,000万ドルから1億ドルの報酬パッケージを提示しているとされる。
MetaのMark Zuckerberg CEOやGoogleの共同創業者Sergey Brin氏も、直接リクルート候補者にメッセージを送るなど、各社のAI人材獲得競争は熾烈を極めている。
一方で、こうした巨額投資に対して、投資家からは懸念の声も上がっている。GoogleやMicrosoftなどの大手テック企業が、見返りの見えないAI開発に莫大な資金を投じることで、バブルが形成されているのではないかという指摘だ。Googleには、技術革新と社会的責任のバランスを取りながら、この投資を正当化するような画期的な成果を上げることが求められるだろう。
Source
- The Wall Street Journal: Google Paid $2.7 Billion to Bring Back an AI Genius Who Quit in Frustration
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