人工知能(AI)業界に新たな動きが起きている。OpenAIの元最高技術責任者(CTO)であるMira Murati氏が、独自のAI企業を立ち上げるべく、巨額の資金調達を計画していることが明らかになった。複数の情報筋によると、Murati氏は独自のAIモデル開発を目指し、ベンチャーキャピタルとの交渉を進めているという。
AI界の新星、Mira Muratiの軌跡
Mira Murati氏は、AI業界で急速に名を馳せた新星である。彼女のキャリアは、拡張現実(AR)スタートアップのLeap Motionや、電気自動車メーカーのTeslaでの経験に始まる。2018年6月にOpenAIに加わったMurati氏は、わずか4年後の2022年5月にCTOへと昇進を果たした。
OpenAIでの6年以上の在籍期間中、Murati氏はChatGPTやDALL-Eといった革新的プロジェクトの最前線に立ち、AIの発展に多大な貢献を果たした。さらに、OpenAIとMicrosoftの数十億ドル規模のパートナーシップにおいても重要な役割を担い、その手腕を遺憾なく発揮した。
ChatGPT開発元のOpenAIの顔として、CEOのSam Altman氏と並んで頻繁にメディアに登場していたMurati氏。2023年5月には、リアルな音声会話が可能なGPT-4oモデルの発表プレゼンテーションを主導するなど、その存在感は際立っていた。
しかし、2023年11月のSam Altman氏の一時解任騒動の際、「OpenAIは人なくして何者でもない」というスローガンを叫んだメンバーの一人でもあったMurati氏。皮肉にも、その彼女が2023年9月末、「個人的な探求の時間と空間を作りたい」という理由でOpenAIを去ったのである。
新AI企業の船出 – 1億ドル超の資金調達を目指す野心的計画
Reutersの報道によると、Mira Murati氏は現在、ベンチャーキャピタリストとの資金調達交渉を進めている。その規模は驚くべきものだ。情報筋によれば、Murati氏の新会社は1億ドル(約150億円)以上の資金調達を目指しているという。
この巨額の資金は、独自のAIモデルを開発・訓練するために必要とされている。AIモデルの開発には莫大なコンピューティングリソースが必要であり、それに伴う費用も膨大なものとなる。Murati氏の名声と、独自モデル開発に必要な資本を考慮すると、この規模の資金調達は決して夢物語ではない。
新会社の詳細はまだベールに包まれているが、AIの製品開発に焦点を当てた企業になるとみられている。Murati氏自身がCEOを務めるかどうかは現時点で不明だが、彼女の経験と実績を考えれば、リーダーシップを取る可能性は高いだろう。
興味深いのは、Murati氏と同じ日にOpenAIを去ったBarret Zoph氏の動向だ。OpenAIでAIモデルのポストトレーニング部門の責任者を務めていたZoph氏も、Murati氏の新ベンチャーに関与する可能性があると報じられている。二人の専門知識が結集すれば、AIの世界に新たな風を吹き込む可能性は大いにある。
しかし、この野心的な計画にも課題はある。AI業界は急速に進化しており、数百万ドルをかけて開発したモデルが数週間で陳腐化してしまうことも珍しくない。Murati氏の新会社が成功を収めるためには、この激しい競争の中で独自の立ち位置を確立する必要がある。果たして彼女は、OpenAIで培った経験を活かし、この難題を克服できるだろうか。
OpenAIからの人材流出 – AI業界の新たな地図が描かれる
Mira Murati氏の退社は、OpenAIからの一連の人材流出の一部に過ぎない。彼女の退社と同日に、OpenAIの主任研究員と研究副社長も退社を発表している。この状況は、AI業界の勢力図が大きく塗り替えられつつあることを示唆している。
特に注目すべきは、OpenAIの共同創業者であり元主任科学者のIlya Sutskever氏の動向だ。Sutskever氏は「Safe Superintelligence Inc.」を立ち上げ、安全な人工超知能(ASI)の開発に焦点を当てている。興味深いことに、この新興企業は短期的にも中期的にも収益が見込めない純粋な研究プロジェクトにもかかわらず、10億ドル(約1500億円)という驚異的な資金調達に成功している。
他にも、OpenAIとTeslaの元AI責任者であるAndrej Karpathy氏はAIを活用した新しい教育機会の創出を目指す企業を設立。OpenAIのSuperalignmentチームの共同リーダーだったJan Leike氏は、競合他社のAnthropicに移籍してAI安全性の研究を続けている。さらに、OpenAIの共同創業者でChatGPTの主要開発者の一人であるJohn Schulman氏もAnthropicに加わった。
これらの人材流出の背景には、OpenAIの優先事項に対する懸念や内部対立などさまざまな理由があるとされる。しかし同時に、元OpenAI社員たちがAI技術に大きな可能性を見出し、新たな方法でその可能性を追求しようとしていることも示唆している。
この一連の出来事は、AI業界の競争が一層激化することを予感させる。各企業が独自の視点とアプローチでAI開発に取り組むことで、技術革新が加速する可能性がある。その一方で、人材の分散により、一つの組織が圧倒的な優位性を保つことが難しくなるかもしれない。
興味深いのは、これらの退社と新規ベンチャーの立ち上げが、OpenAIの技術的リードに対する疑問を投げかけていることだ。もしOpenAIが本当に革新的な人工知能(AGIやASI)の開発に近づいているのであれば、内部事情を熟知している元従業員たちが競合ベンチャーを立ち上げる可能性は低いはずだ。また、投資家たちもそのような競合企業に資金を提供することはないだろう。
つまり、OpenAIの中で「見えたもの」よりも、「見えなかったもの」の方が重要なのかもしれない。AI業界の真の姿は、これらの元OpenAI社員たちの動向を通じて、徐々に明らかになっていくのではないだろうか。
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