任天堂が、未発売ゲームの海賊版をストリーミング配信し、Nintendo Switch用エミュレーターの使用を積極的に推奨していたストリーマーに対し、約750万ドル(約11億円)の損害賠償を求める訴訟を提起した。被告のJesse Keighin氏は、複数のプラットフォームで「EveryGameGuru」として活動し、任天堂からの度重なる警告を無視して違法配信を続けていた。
悪質な違法配信の実態
違法配信の手口と執拗な妨害行為、そして挑発
Keighin氏は過去2年間で、少なくとも50回以上にわたり10種類以上の任天堂ゲームを無断でストリーミング配信していた。最も深刻な問題は、正式発売前のゲームを先行配信する行為を繰り返していたことだ。特に顕著な例として、2024年11月7日に発売された任天堂の年末最大級タイトル『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』を、発売2週間以上前の10月22日に配信していた事実が挙げられる。
任天堂による法的措置や、YouTube、Twitch、Kickなどの配信プラットフォームからの削除要請を受けても、Keighin氏は新たなアカウントを作成して配信を継続した。さらに悪質なことに、2024年10月24日には「1000個のバーナーチャンネルがある」「一日中でもやり続けられる」という挑発的なメッセージを任天堂に直接送付するなど、意図的な挑発行為も行っていた。
エミュレーター推奨と収益化の実態
より深刻な問題として、Keighin氏は視聴者に対して積極的にNintendo Switchエミュレーターの使用を推奨する行為を展開していた。2024年10月17日には、任天堂の法的措置によってGitHubから削除された「Ryujinx」と「Yuzu」という2つの主要エミュレーターについて、「より新しく更新されたバージョンの入手方法を積極的に案内する」と任天堂に通告。「ハードウェアを購入する必要なく、PCでNintendo Switchゲームがプレイできる」と視聴者に宣伝を行っていた。
Keighin氏の行動には明確な矛盾も見られた。「CAPITALISM IS CANCER!(資本主義はがんだ!)」というメッセージとともにエミュレーターへのリンクを共有する一方で、YouTube チャンネルが収益化できなくなると、CashAppを通じた視聴者からの投げ銭募集を開始したのである。
違法配信の実施態様
任天堂の訴状からは、Keighin氏の配信の実態がより具体的に明らかになっている。その多くは「長時間にわたって、何のコメンタリーもなく、単に海賊版ゲームをプレイするだけ」の内容だったとされる。このような単純な違法プレイの配信は、任天堂の正規マーケティングを著しく損なうものであり、さらに未発売ゲームの海賊版入手を暗に奨励する効果があったとして、特に問題視されている。
限定的な影響力と高額な賠償請求
Keighin氏の各プラットフォームでの影響力は、驚くほど限定的だった。404 Mediaの調査時点で確認できた唯一のアクティブな「EveryGameGuru」アカウントのフォロワー数は、わずか43人であった。訴状に添付された証拠資料によると、YouTube チャンネルの最大登録者数は約1,730人、ストリーミングプラットフォームKickでの同時視聴者数は時として1人という状況であり、影響力は決して大きくない。
だが任天堂は、影響力の大小ではなく、行為の悪質性に焦点を当てている。特に以下の点を重視している:
- 未発売ゲームの事前配信による正規マーケティングの妨害
- プラットフォーム変更による執拗な配信継続
- 海賊版ゲームのダウンロードの推奨
- エミュレーターの使用方法の積極的な共有
- 収益化を目的としたCashAppでの投げ銭募集
これらの行為に対し、任天堂は米国著作権法に基づき、著作権侵害1件につき最大15万ドルの法定損害賠償を請求。「少なくとも50回」の違法配信があったとして、総額750万ドル(約11億円)以上の賠償を求めている。
このような高額な賠償請求は、個人の支払い能力を超えているものの、同様の違法行為を企てる可能性のある他者への強力な抑止力として機能することが期待されている。特に、プラットフォームを転々とする「もぐら叩き」的な違法配信への対策として、任天堂は法的措置の実効性を示す必要があったと考えられる。
Xenospectrum’s Take
この訴訟は、巨大企業による「見せしめ」的な法的対応という側面も否めない。しかし、未発売ゲームの事前配信は開発者の意図したゲーム体験を損ない、マーケティング戦略を台無しにする深刻な問題である。
特筆すべきは、被告の挑発的な態度だ。「CAPITALISM IS CANCER!」と叫びながら投げ銭を募るという矛盾した行動は、単なる反企業的イデオロギーの表明というより、注目獲得を狙った意図的な挑発行為とみるべきだろう。
任天堂の法的対応は、影響力の小さな個人に対して過剰に見えるかもしれない。しかし、エミュレーター文化を助長し、未発売コンテンツを先行公開する行為に対する毅然とした姿勢は、デジタルコンテンツの価値を守るという観点からも評価に値するだろう。
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