台湾積体電路製造(TSMC)は、アリゾナ州フェニックス近郊に建設中のFab 21の完成式典について、2024年12月6日から2025年1月以降への延期を決定した。米国の政権移行期における半導体産業政策の変化を見据えた判断とされている。
式典延期の経緯と影響
当初の完成式典には、Joe Biden現大統領、次期大統領となるDonald Trump氏、アリゾナ州知事Katie Hobbs氏、そしてTSMC創業者Morris Chang氏の出席が予定されていた。DigiTimesの報道によると、TSMCは招待予定者に対して既に延期の通知を行っており、新たな式典は Trump氏が大統領に就任する2025年1月22日以降、もしくは2月での開催を検討している。
この延期決定の背景には、米国の半導体産業政策の転換点を見据えた判断がある。Trump氏は前政権時代、台湾の半導体企業に対して強い発言を行っており、TSMCは新政権下での政策変更に備えた対応を進めている。
製造能力と技術展開
Fab 21プロジェクトは、TSMCにとって米国における最重要の戦略拠点となる。総投資額約650億ドルの計画は、現在も予定通り進行している。米国政府からは66億ドルの補助金、50億ドルの融資に加え、投資額の25%相当の税額控除を受けており、官民連携による大規模な半導体製造基盤の構築を目指している。
第1フェーズでは、既にApple向けの4nm/5nmクラスのプロセッサ製造を開始。2025年からの本格的な量産開始に向けて、着実に準備を進めている。第2フェーズの建設も最終段階を迎えており、2027年から2028年にかけて、3nmまたは2nmクラスの製造プロセスでの生産開始を計画している。
さらに第3フェーズは2020年代末から2030年代初頭での稼働を想定しており、より先進的な製造プロセスの導入を検討している。工場の運営責任者には、TSMCの工場運営担当副総経理Wang Ying-lang氏が就任。同氏は6インチから12インチウェハーまでの製造経験を持ち、0.35マイクロメートルから5ナノメートルまでの製造プロセス技術の開発・量産の実績を有している。
市場環境と今後の展望
TSMCの米国展開は、グローバルな半導体サプライチェーンの再編を象徴する動きとなっている。特に5nmクラス以下の先端製造プロセスにおいて、TSMCは現在、実質的な市場優位性を確保している。米国の主要テクノロジー企業の多くがTSMCの製造能力に依存している現状は、同社の交渉ポジションを支える要因となっている。
Xenospectrum’s Take
TSMCの今回の判断は、米国の産業政策と企業戦略の複雑な相互関係を示している。新政権下では補助金や融資保証の見直しが予想されるものの、TSMCの技術的優位性は、交渉における重要な資産となるだろう。半導体製造における先端技術の確保が国家戦略として重要性を増す中、TSMCのアリゾナ工場は、単なる製造拠点以上の意味を持つ。今後の米台関係や半導体産業の行方を占う上で、重要な指標となることは間違いない。
Sources
- DigiTimes: 台積電12月完工典禮突喊卡 半導體大廠紛謹慎推演川普2.0世代
- 工商時報:台積亞利桑那新廠 估明年初完工
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