量子コンピューティングのスタートアップRigetti Computingは、新たなフラッグシップモデルとなる84量子ビットの量子コンピュータ「Ankaa-3」の一般提供を開始した。大幅なハードウェア再設計により、業界最高水準となる99.0%のiSWAPゲート忠実度を達成している。
画期的な性能向上を実現する新設計
Ankaa-3システムにおける最も注目すべき成果は、量子コンピュータの信頼性を示す重要指標である2量子ビットゲートの忠実度において達成された飛躍的な進歩である。2024年に入ってから、同社は従来のエラー率を半減させることに成功し、業界最高水準となる99.0%のiSWAPゲート忠実度を実現した。さらに特筆すべきは、特定のアルゴリズム実行時において99.5%という極めて高精度なfSimゲートの実装にも成功したことである。
これらの量子ゲートは、その精度の高さだけでなく、動作速度においても卓越した性能を示している。標準的な演算に用いられるiSWAPゲートでは72ナノ秒という高速な動作を実現し、より特殊な演算に用いられるfSimゲートにおいては、さらに高速な56ナノ秒での動作を達成した。この性能水準は、一般的な量子アルゴリズム研究から、Google社のWillowシステムで実証されているような高度なランダム回路サンプリングまで、幅広い応用分野において実用的な計算能力を提供するものとなっている。
同社が開発した量子チップアーキテクチャの特徴は、その拡張性の高さにある。独自の3D信号伝送技術を採用し、量子ビットを正方格子状に配置することで、将来的な量子ビット数の増加にも柔軟に対応できる設計となっている。特に注目すべきは、チューナブルカプラーと呼ばれる調整可能な結合素子を実装していることで、これにより量子ビット間の相互作用を精密に制御することが可能となり、複雑な量子演算の実行精度を高めることに成功している。
革新的な技術改良が支える高性能化
Ankaa-3システムの卓越した性能は、複数の革新的な技術改良の統合によって実現されている。まず特筆すべきは、極低温ハードウェアの完全な再設計である。システムの最冷却部における金属使用量を大幅に削減することで、熱効率の向上とコスト削減を同時に達成した。さらに、優れた熱伝導性と磁気・環境シールドの強化により、システム全体の性能向上を実現している。この新設計は将来的に数千量子ビットへのスケーリングも視野に入れており、長期的な拡張性も確保されている。
量子ビットチップの改良においては、フェルミ研究所が主導するSuperconducting Quantum Materials & Systems Center（SQMS）との協力が大きな成果をもたらした。新たに導入された金属蒸着方式により、量子ビットの寿命を示すT1ベースラインの大幅な向上を実現している。さらに、回路レイアウトの最適化により、量子ビットの損失を最小限に抑えることに成功。この新たな高コヒーレンスプロセスの利点を最大限に活用する設計となっている。
Ankaa-3チップの中核を成すジョセフソン接合の製造では、Rigettiが独自に開発したAlternating-Bias Assisted Annealing（ABAA）技術が採用されている。この革新的な製造技術により、量子ビットの周波数を極めて精密に制御することが可能となった。その結果、ツーキュビットゲートの実行精度が向上し、製造歩留まりの改善にも貢献している。チップ設計においては、量子ビットを正方格子状に配置し、チューナブルカプラーを組み込んだAnkaaクラスのアーキテクチャを採用することで、高い拡張性と制御性を実現している。
制御技術の面では、同社は量子処理装置（QPU）を支える基盤技術に多大な投資を行っている。チップ全体にわたる量子ビットとチューナブルカプラーの周波数最適化により、不要な量子ビット間相互作用を抑制することに成功。さらに、リアルタイムでのハードウェアパルス補正機能により、より低いインコヒーレントエラーを持つゲート操作を実現している。特筆すべきは、平方根iSWAP様のゲートに対する堅牢な校正プロセスの開発であり、これらのゲートの実用的な使用に関連する複雑なコンパイル上の課題を解決している。その結果、大幅に低いエラー率を持つnQA指向のゲートセットの実装に成功している。
これらの技術革新は、Dr. Subodh Kulkarni CEOが述べるように、同社の超伝導量子コンピューティング分野におけるリーダーシップを強化するものとなっている。特に、高速なゲート速度と確立された製造プロセスという利点を持つ超伝導方式は、高性能量子コンピュータの実現に向けた有力な手法として注目を集めている。さらに、約2億2500万ドルの潤沢な資金力と無借金経営により、今後のロードマップと性能目標の達成に向けた強固な基盤を有している。
Source
コメント