スマートフォンやPCのプロセッサ設計で知られるArmが、2025年に向けて大きな戦略転換を図ることが明らかになった。これまで同社の強みとされてきた省電力性能よりも、処理性能の向上を重視する方針だ。CES 2025での同社幹部の発言から、高クロック周波数の実現とAI処理の強化が次世代製品の核となることが見えてきた。
省電力から高性能へ – Armの歴史的転換点
Armのクライアント事業部門 シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのChris Bergey氏は、PCWorldとのインタビューで同社の新たな方向性を詳細に語った。Armのプロセッサアーキテクチャは、従来からAMDやIntelが採用するX86アーキテクチャと比較して優れた電力効率性を持つとされてきた。この特性は特にモバイル機器で重宝され、スマートフォン市場での圧倒的なシェアにつながってきた。
しかし、近年のコンピューティング環境の変化、特にAIワークロードの増加により、純粋な処理性能の重要性が高まっている。Bergey氏によれば、Armは既にIPC(命令実行サイクルあたりの性能)においてリーダーシップを確立。次なる課題として、動作周波数の向上に焦点を当てる方針を示している。
プロセッサの総合性能は、IPCと動作周波数の積として表現される。Armは現在、IPCでは競合製品を上回る性能を達成しているものの、動作周波数では及ばないケースが多い。この状況を打破するため、同社は4GHz以上の動作周波数実現を目指した技術開発を進めている。
この取り組みの中核となるのが、最新の半導体製造プロセスに最適化された設計手法の確立だ。Bergey氏は「最新のプロセスノードで4GHzの動作を実現するためのレシピを提供する」と説明。これは単なる理論上の目標ではなく、具体的な設計指針としてライセンシーに提供される予定だ。
次世代AIへの対応 – 包括的なアプローチ
性能向上と並行して、Armは次世代AI処理への対応も強化する。CPUレベルでは、既存のNeon、SVE(Scalable Vector Extensions)、SVE2に続く、新たな命令セット拡張を計画している。特にSVE2を基盤とした拡張は、増加するAIワークロードに向けて最適化されたものとなる。
GPUにおいても、AIを活用した革新的なアプローチを導入する。例えば、1080p/60Hzでの直接描画に代わり、540p/30Hzで描画した画像をAIで補間する手法を採用。これはNVIDIAのDLSS 4に類似した手法だが、モバイル環境特有の制約を考慮した実装となる。Bergeyは「モバイル環境におけるGPUの総合的な処理能力でリーダーシップを確立する」という野心的な目標を掲げている。
これらの新技術は、次世代コンピューティングプラットフォーム「Arm CSS for Client」として統合される。このプラットフォームは、高性能化とAI処理の強化という二つの戦略的目標を実現するための包括的なソリューションとして位置づけられている。
重要な点は、このプラットフォームがライセンシーの製品開発を加速させる役割を担うことだ。Armは、コアライセンスとアーキテクチャライセンスという二つの主要なライセンスモデルを提供している。コアライセンスでは検証済みのArmコアをそのまま使用でき、アーキテクチャライセンスではAppleのように独自のコア設計が可能となる。「Arm CSS for Client」は、両方のライセンスモデルにおいて、高性能化への道筋を提供するとのことだ。
ちなみにArmとQualcommの間で進行中の法廷闘争については、解決にはほど遠い状況のようだ。Bergey氏は、最近の裁判所の判決にもかかわらず、両社の間には重大な問題が「未解決」のままであると指摘した。この訴訟の将来は不透明であり、さらなる交渉が必要となるだろう。
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