ストレージメーカーのSeagateが実施した大規模調査で、AI(人工知能)の導入拡大に伴い、企業の必要とするデータストレージ容量が今後3年で2倍以上に増加する見通しであることが明らかになった。特にクラウドストレージの需要が顕著で、2024年時点でAI関連データの65%がクラウドに保存され、2028年までに69%まで増加すると予測されている。
AIとストレージの最新動向:需要拡大の実態と企業の対応
Recon Analytics社が2024年11月に実施した大規模調査は、AI導入とストレージ需要の密接な関係を浮き彫りにした。調査対象となった年間売上1,000万ドル以上の企業1,062社のうち、72%が既にAIを導入済みで、導入企業の多くが想定以上のストレージ需要増加に直面している。
特に注目すべきは、AIデータの保存場所としてクラウドストレージの優位性が際立っている点だ。2024年時点で全AIデータの65%がクラウドに保存されており、この比率は2028年までに69%まで上昇する見込みだ。クラウドストレージを主要な保存先として利用している企業の61%は、今後3年間で必要なストレージ容量が倍増すると予測している。
この急激な需要増加の背景には、AIモデルの学習プロセスに特有の要因がある。その代表例が「チェックポイント」と呼ばれる学習過程のスナップショットだ。100ペタバイト以上の大規模ストレージを利用する企業の実に87%が、これらのチェックポイントをクラウドまたはHDDとSSDを組み合わせたハイブリッド環境で保存している。具体的な保存頻度を見ると、28%の企業が毎日、43%が週次でバックアップを実施。さらに注目すべきは保存期間で、32%の企業が12カ月以上、29%が6-12カ月という長期保存を選択している。
この長期保存の傾向には、AIモデルの品質向上という明確な目的がある。調査では、AIを導入している企業の90%が「長期的なデータ保持がAIの精度向上に貢献する」と回答。特に、データレプリケーション(複製)の重要性も浮き彫りになった。100ペタバイト以上のストレージを使用する企業の過半数が、AIの学習結果の品質向上にはデータレプリケーションが「非常に重要」と評価している。
AIインフラの整備における優先順位も明確になった。セキュリティが最重要項目(25%)として挙げられ、次いでストレージ(18%)が続く。注目すべきは、これまで議論の中心だった計算能力やエネルギー効率よりも、データの保管と保護が重視されている点だ。この傾向は、AIの本格導入に伴いデータの重要性が増していることを示唆している。
企業の46%が「既存のストレージ手法では今後の需要増加に対応できない」と考えており、この認識は特に大規模なAIモデルを運用する企業で顕著だ。AIの学習データは、従来のビジネスデータと比較して、保存期間、アクセス頻度、データ量のいずれにおいても大きく異なる特性を持つ。このため、既存のストレージインフラやデータ管理手法の見直しが急務となっている。
企業が取れる対応策は
増大するストレージ需要に対し、企業は複数のアプローチを組み合わせた総合的な対策を進めている。スケーラブルなクラウドストレージソリューションの採用が最も一般的な対応となっており、特に大規模なデータを扱う企業を中心に導入が加速している。既存インフラのアップグレードも parallel に進められており、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境の最適化が図られている。
データ管理の面では、高度な管理ソフトウェアの導入が進んでおり、特にAIワークロードに特化した管理ツールへの需要が高まっている。これらのツールは、データの重複排除や効率的なストレージ階層化を実現し、増大するデータ量の効率的な管理を可能にしている。さらに、データ圧縮技術の採用も進んでおり、特にAIモデルのチェックポイントデータの効率的な保存に活用されている。
業界の対応としては、Seagateが次世代のHAMR(熱アシスト磁気記録)技術を用いたハードドライブの開発を加速させている。同社のチーフ・コマーシャル・オフィサーであるBS Teh氏によれば、今後数年でプラッタあたりの記憶容量を2倍以上に増加させる計画という。この技術革新は、増大するデータ需要に対する長期的な解決策として期待されている。
市場分析企業Recon Analyticsの創業者兼主任アナリストのRoger Entner氏は、クラウドサービスが第二の成長波に乗る好機を迎えていると分析している。特に注目すべきは、AIの本格展開に伴うストレージニーズの質的変化だ。単なる容量の増加だけでなく、データの長期保持やレプリケーション、高速アクセス性能など、多面的な要求に応える必要性が高まっている。
現在のAI導入フェーズから本格的な実用フェーズへの移行に伴い、ストレージ要件は更なる複雑化が予想される。企業には、コスト効率と運用効率の両立を図りながら、柔軟でスケーラブルなストレージインフラの構築が求められている。この傾向は、ストレージ市場全体のイノベーションを加速させる要因となることが予想される。
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