Donald Trump(ドナルド・トランプ)大統領がカナダ・メキシコ・中国に関税を課すことを決定した。半導体や自動車など主要輸入品に影響が拡大し、消費者価格の急騰が懸念されている。専門家は「技術産業のサプライチェーンに深刻な混乱がもたらされる」と指摘する。
カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に新たな関税
Trump米大統領は、かねてより表明していた通り、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に対し、新たな関税を課すことを発表した。具体的な関税率は、カナダとメキシコからの輸入品には25%、中国からの輸入品には10%となる。
この関税は、米国への輸入品全体のおよそ40%を対象とすると予測されている。Trump大統領は、この関税について「交渉の戦術ではない」と明言しており、3ヶ国が関税の発動を阻止するためにできることはないと述べた。
対象品目は多岐にわたるが、特にテクノロジー業界への影響が大きいと見られている。中国は米国にとってテクノロジー製品の主要な輸入元であり、今回の関税によってPCハードウェアや消費者向けテクノロジー製品の価格上昇が避けられない可能性がある。
消費者技術協会(CTA)の過去の試算によると、中国からの輸入品に対する関税率が60%に達した場合、主要な消費者向け技術製品の価格は大幅に上昇する可能性がある。具体的には、ノートパソコンとタブレットで46%、ビデオゲーム機で40%、スマートフォンで26%もの価格上昇が予測されている。
NVIDIA、AMD、Microsoftなどの大手テクノロジー企業は、Trump関税の発動を以前から警戒しており、既に対応策を講じている。しかし、関税によるコスト増を吸収することは難しく、これらの企業は「Trump政権の政策」を理由に、製品価格の値上げに踏み切る可能性が高い。
半導体業界に迫る二重苦
半導体産業は、今回の関税によって大きな影響を受けることが予想される。特に、台湾のTSMCのように、米国国外で半導体を生産する企業は、高い関税によって米国市場での競争力が低下する可能性がある。
Trump政権は、海外で半導体を生産する企業に対し、最大100%もの関税を課すことを検討しており、国内生産への回帰を強く促す可能性がある。特に世界最大の半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)は米国向け先端チップの92%を供給しており影響は甚大だ。米国での半導体工場建設プロジェクトは、すでに材料および人件費の高騰によって遅延が発生しており、関税措置が追い打ちをかける構図だ。Intelの工場建設も遅れており、国内生産体制の構築には時間がかかることが予想される。
アナリストは、CHIPS法による補助金が削減または撤廃される可能性も指摘しており、国内生産を促進するための財政的な支援が不透明な状況である。
米国半導体工業会(SIA)は「関税戦争が米国チップメーカーを傷つける」と警告。CHIPS法の補助金削減可能性も指摘され、Intelがオハイオ州の新工場計画を2026年まで延期した事実が業界の苦境を物語る。TSMC関係者は「米国工場の量産開始まで最低3年必要」と現実的な課題を語る。
自動車価格に25%の衝撃
自動車業界への影響も大きくなることが予想される。S&P Global Mobilityの分析によると、メキシコ・カナダ製自動車への25%関税で、2万5000ドルの車種は消費者負担が6450ドル増加。米国向け自動車生産の70%を担う両国からの輸入台数は年間約370万台に上る。
「関税は業界にとって巨大な打撃」と同社Mike Wall執行役員は強調。FordのFシリーズトラックやトヨタRAV4など主要モデルが対象となり、中古車市場にも波及効果が予想される。Volkswagenは「北米全域での関税解決を望む」との声明を発表した。
電気自動車大手RivianのCEOであるRJ Scaringe氏は「EV業界にとって税制優遇廃止より関税の方が脅威」と警鐘を鳴らす。部品調達コスト上昇で、Biden政権のインフレ抑制法による国内生産拡大効果が相殺される可能性がある。中国製バッテリー部品への追加関税検討もEVメーカーの採算を圧迫する。
Forresterの分析では、クリーンエネルギー政策の後退が技術職に影響。「コンピューター・数学分野の職種が特に脆弱」と指摘し、半導体に続く第2の失速リスクが浮上している。
専門家分析:経済の負の連鎖
Forresterのシナリオ分析によると、関税による輸入品価格上昇でインフレ率が2.5%上昇し、FRBが利上げに転じる可能性も指摘されている。逆に政府支出削減で経済成長が鈍化すれば、輸入減少から追加関税発動の悪循環が予想される。半導体と自動車という二大産業を巻き込んだ貿易戦争の行方が、米国経済全体の命運を握る状況だ。
実際に、今回のTrump関税発動に対し、カナダとメキシコは直ちに報復措置を発表した。カナダのTrudeau首相は、1550億カナダドル相当の米国製品に対し、3週間かけて段階的に25%の報復関税を課すと発表した。メキシコのSheinbaum大統領も対抗関税を発表したが、その規模はまだ明らかにされていない。
中国も「必要な対抗措置を講じる」と表明しており、世界貿易機関(WTO)に提訴する方針を示している。さらに、Trump政権はEUに対しても関税を課す可能性を示唆しており、貿易戦争は世界規模で拡大する様相を呈している。
過去のTrump政権下でも、鉄鋼やアルミニウムなど特定品目に関税が課せられ、貿易戦争が勃発した。中国は報復として、大豆やトウモロコシなど米国からの輸入品に関税を課し、米国の農業収入は100億ドル以上減少した。「関税収入の92%が農家救済に充てられた前例が示すように、消費者が最終的な負担者となる」と経済アナリストは指摘。今回も同様の報復関税と輸出阻止の応酬が予想され、貿易戦争は泥沼化する可能性が高い。
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