生成AIの登場はソフトウェア開発を大きく変えているが、これについては、その基礎を教える教育現場にも大きな変化をもたらしているようだ。
コンピュータサイエンスの学生は、この新しい技術を大いに活用している。複雑な概念を理解し、複雑な研究論文を要約し、問題を解決する方法をブレインストーミングし、新しい研究の方向性を考え出す事など、生成AIの用途は多岐にわたる。
そして、教える側でもこのツールを大いに活用し始めている。一般的にコンピューターサイエンスの入門では、コードの構文とプログラムの実行という基礎を学ぶが、生成AIの活用を前提とし、AIが生成したコードが正しいかどうか検証出来る様に、コードのテストやデバッグといったより高度なスキルも初期の段階で学ぶように重点が移されつつあるという。
また、コードのテストやデバッグの他に、講師たちは、大きな問題をLLMがより簡単に解決できるような小さな問題に分解する問題分解にも重点を置いている。カリフォルニア大学サンディエゴ校のLeo Porter准教授(コンピューター・サイエンス)は、「大きな問題をLLMが解決できるような小さな断片に分割する必要があるので、これは早い段階で知っておくべきスキルです」と、その必要性を説く。
AIがコーディングに役立つことは確かだが、幻覚を見たり、著作権を侵害したりする可能性があるため、その使用には注意するよう教授陣は学生に警告している。また、AIは自動操縦ではなく、あくまでも副操縦士として使うべきだと警告している。
クラークソン大学のJeanna Matthews教授は「学生がAIに頼りすぎると、学習プロセスを短絡させてしまう可能性がある」と指摘している。生成AIへの過度な依存が落とし穴になる可能性があり、批判的思考や効果的な学習プロセスを失わないように、問題に対する可能性のある解決策を自分で探求する必要がある。
生成AIは非常に新しいものであるため、多くの教授がまだコースを適応させたばかりだ。これらのコースが現在とっている形は、実際にどの程度機能するかを確認する必要があるため、最終的な結果にはならない可能性が高い。
ただし、その利用についてはポジティブな物も少なくない。
IEEEの取材に応じたある教育者によると、以前は学生にコードを書かせ、事前に書かれたテストに合格したかどうかで採点していたという。この教育者は現在、このような教育方法は制約が多すぎることに気づき、教育方法の幅を広げたという。
トロント大学ミシサガ校のコンピュータサイエンス准教授のDaniel Zingaro氏は、「コードだけでなく、ソフトウェア開発(ライフサイクル)全体の学習プロセスを評価する機会です。そして、私のコースは以前よりもより開放され、より幅広くなったと感じています。学生たちに、より大規模で高度なプロジェクトに取り組ませることができます」と、この機会をチャンスと捉えている。
シンガポール国立大学コンピューティング学部のOoi Wei Tsang准教授もこの意見に賛同し、生成AIツールについて、「より高度な思考、たとえばソフトウェアの設計方法、解決すべき正しい問題とは何か、解決策とは何か、などを教える時間を確保できます。学生はコードの構文に集中するよりも、最適化、倫理的問題、システムの使いやすさなどに時間を割くことができます」と、述べている。
生成AIの台頭に対応するには、学生と教育者が協力し、互いに学び合うことが必要だ。「学生を実社会に送り出す準備をしているのであり、実社会は移り変わろうとしているのです」と、Matthews氏は指摘している。
Sources
- IEEE Spectrum: AI Copilots Are Changing How Coding Is Taught
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