イタリアの国立研究評議会(CNR)を中心とする国際研究チームが、光からなる「超固体」の生成に世界で初めて成功した。2025年3月5日付で科学誌『Nature』に発表された画期的な研究は、これまで超冷却原子からのみ作られていた超固体を、全く新しい方法で実現している。物質科学における重要な進展となる本成果は、量子技術や光学デバイスの発展に貢献する可能性を秘めている。
超固体とは:矛盾する物質状態の融合
超固体は、一見すると相反する2つの特性—結晶としての空間的な秩序構造と、超流動体としての摩擦なき流動性—を同時に持つ奇妙な量子状態である。一般的な物質は固体か液体のどちらかだが、超固体は両方の特性を同時に持つという、直感に反する性質を示す。
トレント大学の原子・光学物理学者Iacopo Carusotto氏は「超固体は空間的に周期的に配置された量子的にコヒーレントな液滴からなる流体と考えられます。これらの液滴は障害物を通り抜ける際に乱されることなく、結晶固体のように空間配置と相互距離を変えずに流れることができます」と説明する。
通常の物質状態(固体、液体、気体、プラズマ)の枠を超えた超固体は、1960年代に理論的に提案され、数十年にわたる研究の末、近年になって超冷却原子(絶対零度近くまで冷却された原子)を使った実験で実証されてきた。しかし、原子を使わずに超固体を作り出すことは、これまで成功していなかった。
光から超固体を作る:革新的アプローチ
CNR-Nanotec研究所のDimitrios Trypogeorgos氏が主導する今回の研究チームは、全く新しい方法で超固体を実現した。研究者たちは、精密に設計された溝を持つ半導体(ガリウムヒ素)にレーザー光を照射。これにより光子(光の粒子)と物質の励起状態が結合し、「ポラリトン」と呼ばれる準粒子を生成した。
「これは単に原子系の光学的類似ではなく、超固体状態に到達するための根本的に新しいメカニズムです。超固体のテーマは過去10年間、超冷却原子BEC(ボース・アインシュタイン凝縮体)で探求されてきましたが、今回は原子ではなく光子でこの物理現象が起こるだけでなく、全く新しいメカニズムを含んでいます」とTrypogeorgos氏は説明する。
半導体の特殊な構造(フォトニック結晶導波路)が、これらのポラリトンを「連続体中の束縛状態(BiC)」と呼ばれる特定の量子状態に閉じ込める。最初は光子がゼロ運動量の状態に落ち着くが、この状態が「満員」になると、光子のペアが隣接する2つの状態に移動し始める。
CNR NanotecのAntonio Gianfrate氏とパヴィア大学のDavide Nigro氏は、この過程を「量子劇場」に例えている:
「すべての席が埋まっている劇場で、前列の中央と両端に3つだけ空席があると想像してください。中央の席は最も視界が良いため、みんながそこに座りたがりますが、通常は1人しか座れません。しかし量子劇場では、ボソン粒子(整数スピンを持つ粒子)ならば全員が中央の席に座ることができ、ボース=アインシュタイン凝縮体(超流動状態)を形成します。」
しかし、粒子間の相互作用により、中央に座れる粒子の最大数には制限があり、それを超えると粒子のペアが左右の席に押し出されていく。結果として、空間的に特定のパターンを持ちながらも、摩擦なく流れる能力を保持した超固体が形成される。
超固体の確認方法と科学的意義
この全く新しい方法で作られた超固体の存在を確認するため、研究チームはいくつかの検証実験を行った。まず、光子の密度をマッピングすると、中央に谷を持つ2つの高いピークという特徴的な分布パターンが観察された。このパターン上に特定の変調が存在することで、「並進対称性の破れ」(超固体の特徴の一つ)が確認された。
さらに、干渉計測法を用いてシステムの量子状態を測定し、各状態成分での局所的なコヒーレンス(量子的な位相の一貫性)と、システム全体での大域的なコヒーレンスを確認。これらの結果は、確かに超固体が形成されたことを示していた。
パヴィア大学のDario Gerace教授は「半導体ナノ構造内を流れる光の流体でこの特殊な凝縮物質状態を実現することで、新しい制御された方法でその物理的特性を調査し、おそらく新しい発光デバイスへの応用に向けてその独自の特性を活用できるようになるでしょう」と述べている。
CNR-NanotecのDaniele Sanvitto研究部長は、「この研究は光学プラットフォームでの超固体相の観察を実証するだけでなく、非平衡系における物質の量子相の探索への道を開くものです。これは特に、このアプローチが基礎科学と実用的応用の間のギャップを埋める可能性を持っているため、重要です」と強調する。
超固体研究の歴史と将来展望
超固体の概念は1960年代に初めて提案され、1970年代に理論的探求が加速した。当初、ヘリウムが超固体を実現するための最も有望な候補と考えられ、1980年代には物理学者John Goodkindが超音波技術を用いて超固体が実現可能であることを示唆する物質中の異常を特定した。2000年代に入ると、新しい実験データが超固体の振る舞いをより強く示唆するようになったが、一部の発見は理論的予測と矛盾し、この状態をさらに捉えにくいものにしていた。
従来、超固体状態を達成するには、超冷却原子ボース=アインシュタイン凝縮体と電磁場が必要だと考えられていた。この方法は近年になってようやく成功し、テーブルソルトのような構造でありながら流れることもできる物質を生み出した。しかし、今回の研究は全く異なるアプローチで、原子を全く使わずに超固体を作り出したのだ。
研究チームは、この超固体の結晶構造をさらに制御し研究を進める計画を立てている。光でできた超固体は、原子でできた超固体よりも柔軟で操作しやすい可能性があり、この新しいプラットフォームは将来の研究にとって根本的に異なる有望な道を提供するとされる。
将来的には、この研究は量子コンピューティング、超伝導体、摩擦のない潤滑剤、そして高度な光子デバイスやニューロモーフィックコンピューティング(脳のニューロンの機能を模倣するアプローチ)など、今はまだ想像もしていない応用につながる可能性がある。
「物理学では、言語と視点の変化が新たな洞察をもたらすことがありますが、それは時に魔法のようです」とTrypogeorgos氏は語る。「今、私たちは超固体相の物質にとって最低限必要な要素を特定した段階にあり、これからさらに要素を加えていくことができます。光子を扱うことで全く新しいツールセットが得られ、多体光子学や駆動散逸物理学という挑戦的な領域にこの物理を持ち込むことができます。これはほんの始まりであり、私たちが作り出した物質状態の特性を完全に特徴づけるためには、さらに多くの研究が必要です」。
論文
参考文献
- Consiglio Nazionale delle Ricerche: Svolta nella fisica quantistica: la supersolidità nei condensati di polaritoni di cristalli fotonici