中国の検索大手Baiduが次世代AIモデル「Ernie 4.5」と推論モデル「Ernie X1」を発表した。同社はこれまでのクローズドソース路線から転換し、Ernie 4.5シリーズを2025年6月30日からオープンソース化することも明らかにした。この動きは中国のAIスタートアップDeepSeekの台頭を受けたもので、AI市場における競争激化を示している。
新モデルの特徴と競争戦略
Ernie 4.5は、ビデオ、画像、音声、テキストを処理できるマルチモーダル機能を持つ最新のベースモデルである。Baiduによれば、このモデルは「高いEQ」を特徴とし、ミームや風刺を理解できるほか、ハルシネーションの削減、複雑な推論タスク処理、コード作成能力も向上している。内部ベンチマークでは、OpenAIの標準GPT-4oを上回り、最新のGPT-4.5と同等の性能を持つとしている。


一方、新たに発表された推論モデルErnie X1は、DeepSeek R1と同等のパフォーマンスを半額のコストで提供すると主張している。ただし、この主張を裏付けるベンチマークや技術詳細はまだ公開されていない。
価格設定においても積極的な戦略が見られる。BaiduのQianfanクラウドプラットフォームでは、Ernie 4.5の価格を入力100万トークンあたり0.55ドル、出力は2.20ドルに設定。これはOpenAIのGPT-4.5(入力100万トークンあたり75ドル、出力150ドル)と比較すると大幅に安い。Ernie X1はさらに低価格で、入力0.28ドル、出力1.10ドルとDeepSeek-R1のAPI費用の半分に設定されている。
また、Baiduは個人ユーザー向けに2025年4月1日からチャットボットErnie Botの無料提供を開始することも発表した。
オープンソース戦略への転換とその背景
BaiduのCEO Robin Li氏はこれまで、AIモデル開発においてクローズドソースモデルが唯一の実行可能な道だと主張していた。しかし、DeepSeekの台頭がこの姿勢を一変させた。DeepSeekは、OpenAIの先進システムと同等の性能を持ちながら運用コストが低いオープンソースAIサービスを提供している。
Li氏は2024年2月のドバイでのイベントで「オープン化すれば、多くの人が好奇心から試してみるだろう。これは技術の普及をずっと速くするのに役立つ」と述べ、オープンソース開発への見解を変えた。
この戦略転換は、2025年1月に「DeepSeekモーメント」と呼ばれる転機が訪れた後に加速した。DeepSeekが西洋のAIラボと同等のパフォーマンスをはるかに少ないリソースで実現できることを示したのである。
市場ポジションと将来展望
Baiduは2023年3月に中国初のChatGPT代替としてErnie Botをリリースし、3ヶ月で7000万ユーザーを獲得したものの、広範な採用に苦戦している。Reuters社の報道によると、中国ではByteDanceのDoubaが最もアクティブなユーザー数を持ち(7860万人)、DeepSeekが3370万人、Ernie Botは1300万人に留まっている(2025年1月時点)。
Baiduは今後、2025年後半に次世代モデル「Ernie 5」をリリースする計画もあり、マルチモーダル機能のさらなる強化が見込まれる。
西洋のAI企業はこうした中国企業の動きに注目している。AnthropicとOpenAIはともに、国家安全保障と政治的懸念を理由に中国のAI開発を規制するよう米国政府に請願している。しかし、オープンソースの中国モデルは、これらの企業の商業API提供に大きな影響を与える可能性がある点も指摘されている。
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