欧州宇宙機関(ESA)によって開発された宇宙望遠鏡「ユークリッド」は、我々の銀河系から100億光年離れたところにある無数の銀河の形、距離、動きを調査し、定量化するという途方もない使命を帯びている。この野心的な試みは、最終的には、これまで作られた中で最も広範な宇宙の3次元描写をもたらし、天文学者に暗黒物質と暗黒エネルギーという謎めいた領域に関する貴重な洞察を提供する事が期待されている。
7月に打ち上げられたユークリッドは、宇宙の謎を解き明かす6年間の宇宙探検に乗り出していた。そして現在、地球から約160万kmの距離に位置するユークリッドは、その準備を終え、NASAの強力なジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡と共に、宇宙のダークサイドとして知られる謎めいた領域を掘り下げる事となる。
そして今回、ESAはそのユークリッドが撮影した初のフルカラー画像を公開した。
「これほど詳細な天文画像を見たのは初めてです。私たちが期待した以上に美しくシャープで、近傍宇宙のよく知られた領域で、これまで見られなかった多くの特徴を見せてくれています。これで、何十億もの銀河を観測し、宇宙の時間の経過に伴う銀河の進化を研究する準備が整いました」と、ESAのユークリッド・プロジェクト・サイエンティストであるRené Laureijs氏は、公式リリースで述べている。
ペルセウス座銀河団
今回、ユークリッドが公開した最初の画像は、ペルセウス座銀河団に属する1,000個の銀河の集合である。私たちの惑星から約2億4000万光年離れた場所に位置するこの銀河団の背景には、さらに遠方に位置する10万個の銀河が写っている。
この広大な配列の中には、これまで見ることのできなかった銀河が数多く存在する。実際、ある銀河は非常に遠くに位置しており、その光が私たちに届くまでに約100億年かかっているのだ。
この驚くべき画像は、ペルセウス座銀河をこれほど包括的かつ詳細に描き出した初めての例である。これらの銀河の分布と構造をマッピングすることによって、科学者たちは、宇宙のこの特別な領域を形成する暗黒物質の影響について洞察を得ることができるかもしれないと期待を寄せている。
渦巻銀河 IC 342
続いては、「隠れ銀河」やコールドウェル5などさまざまな名前で呼ばれている渦巻銀河IC 342を紹介する。およそ1,080万光年の彼方に位置するIC 342は、天の川銀河の面内にある星々、ガス、塵に隠されているため、検出が難しい。ユークリッドは、近赤外線観測装置を駆使することで、これらの障壁を突き破り、IC 342の恒星の未発見の側面を明らかにすることに成功している。
イタリアの国立天体物理学研究所のLeslie Hunt氏は声明の中で、「この画像は普通に見えるかもしれない。ここで特別なのは、銀河系全体をカバーする広い視野を持ちながら、単一の星や星団を区別するためにズームインすることもできるということです」と、述べている。
IC 342は、天の川銀河と同じ渦巻き銀河である。我々の銀河系は端から端までしか見ることができないため(結局のところ、我々は銀河系の中に住んでいるのだ)、科学者たちは銀河系をよりよく見ることができる他の銀河を解剖することに頼らざるを得ない。したがって、IC 342を研究することは、天の川銀河について多くのことを教えてくれる。特に、ユークリッドによって明らかにされた新しい詳細は、星形成の歴史と進化の追跡に役立つとHunt氏は付け加えた。
「億の銀河を観測する必要があるなら、まずは1つから始めなければなりません。そしてこれがその1つです」。
NGC 6822銀河
ユークリッドの最新画像(シリーズ3枚目)は、NGC6822と呼ばれるそのような不規則銀河のひとつを捉えたものだ。
地球から160万光年の距離にある不規則銀河NGC6822の最高の画像のひとつは、わずか1時間の観測から得られたという。
NGC 6397
この驚くべき画像はNGC 6397という球状星団で、地球からおよそ7800光年の距離にある。地球から2番目に近い球状星団であるNGC 6397は、他の星団とともに、ユークリッドによる探査の大きな可能性を秘めている。この種の望遠鏡としては唯一、ユークリッドはこれらの星団内の個々の星を比類ない精度で精査する能力を持つ。球状星団の形成と組成は暗黒物質の引力に大きく影響されるため、この前例のないチャンスは、天の川銀河全体の暗黒物質の分布に関する貴重な洞察を提供する可能性がある。
馬頭星雲
今回のユークリッドの撮影では、バーナード33としても知られる馬頭星雲も鮮やかに描かれている。オリオン大星雲の中に位置するこの星雲は、若く灼熱の星々の温床となっており、およそ1,500~1,350光年の距離にある、地球に最も近い星形成領域という特徴を持っている。
これらの画像は美しいだけでなく、今まさに人類が取り組んでいる科学を次に進める可能性に満ちたものだ。コンソーシアムでは、この5つの画像から多くの論文が生まれることを期待しており、また、暗い宇宙に光を当てる膨大な数の新しい観測も計画中である。
「ダークマターは銀河を引き寄せ、可視物質だけでは説明できないほど急速に回転させています。ユークリッドによって、宇宙学者は初めてこれらの相反する暗黒の謎を一緒に研究することができるようになります。ユークリッドの精巧な画像は、ミッションが現代物理学の最大の謎のひとつに答える準備が整っていることを示しているのです」と、ESAサイエンス・ディレクターのCarole Mundell教授は説明した。
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