今年に入り、常温超伝導が成功したという話題を取り上げるのは2回目となるが、韓国の研究者らが常圧・室温で超伝導特性を示す物質の合成に成功した事を報告している。
論文はプレプリントサーバーarXivに掲載され、まだ査読を受けていない。もしこれが再現可能であることが示されれば、世界のエネルギー事情が一変する世紀の大発見となるだろう。超伝導体は抵抗なく電気を伝え、一連の磁気特性を持っているため、技術的な応用において貴重な存在となる。通常、超伝導体は非常に低い温度まで冷却する必要がある。研究室の外で通常の条件下で働くことができる超伝導体は革命的なものだ。
高麗大学の量子エネルギー研究センター(Qセンター)の代表であるSukbae Lee氏は、同僚のJi-Hoon Kim氏、Young-Wan Kwon氏とともに、「我々は世界で初めて、改良型アパタイト鉛(LK-99)構造を用いて、常圧で動作する室温超伝導体(Tc≥400 K、127℃)の合成に成功しました」として、研究を報告している。
室温超伝導体については、今年の3月に米国のロチェスター大学で開発されたReddmatterと呼ばれる材料が記憶に新しいところだ。こちらは材料の製造方法などが明かされておらず、他のチームによる再現も行われていないが、研究チームの代表であるRanga Dias氏は2020年にも同様の報告をしたのち、問題があったとして論文の撤回に追い込まれているため、研究者らは懐疑的だ。
今回、常温超伝導体であると主張されている改良型アパタイト鉛またはLK-99と呼ばれる新材料を作るため、Kim教授らは鉛、酸素、硫黄、リンを含むいくつかの粉末化合物を混ぜ合わせ、高温で数時間加熱した。これにより粉末は化学反応を起こし、濃い灰色の固体に変化した。
研究者たちは次に、LK-99のミリメートルサイズのサンプルが、異なる温度で電気を通したときにどの程度抵抗するかを測定し、いわゆる抵抗率が、105℃ではかなりの正の値であったのが、30℃ではほぼゼロまで急激に低下することを発見した。
LK-99が室温・常圧で超伝導を維持・発現する最も重要な要因は、界面で微細な歪んだ構造を維持できるLK-99のユニークな構造にあるという。著者らは、この物質の修正された/歪んだ構造が、特定の鉛原子とそれに結合したリン酸基の隣接するオキシゲンとの間に多数の「量子井戸」を作り出し、事実上2次元の「電子ガス」を作っていると考えている。彼らは、3.7から6.5オングストローム離れているこれらの量子井戸間の電子トンネルが超伝導メカニズムであると提唱している。
研究チームはまた、この物質の臨界電流、電気抵抗の欠如、臨界磁場、マイスナー効果も記録した。マイスナー効果とは、超伝導体が転移する際に磁場を放出する能力のことで、近くの磁石と反発し、物質が浮遊することを可能にする。これらの性質から、研究チームはLK-99が確かに超伝導体であると主張した。
マイスナー効果により、超伝導体は通常の磁石の上に置くと浮遊する。ビデオでは、LK-99の一部を磁石の上に置いたが、磁石の表面から明らかに浮き上がっている事が確認出来る。
ただし、一般的に超伝導体の画像として掲載される様に完全に素材が浮き上がっている訳ではなく、平らな素材の片方の端だけが完全に浮き上がり、もう片方は磁石に接触したままである。Kim氏によれば、これはサンプルが不完全であるためで、その一部だけが超伝導になり、マイスナー効果を示すのだという。
超伝導の重要な側面の1つは臨界温度で、材料が超伝導になる温度である。LK-99の臨界温度は127℃(261°F)だ。もしこれが確認されれば、LK-99は唯一の常温超伝導体となる。しかし、動作に莫大な圧力を必要としない最初の超電導体となるだろう。
今回のLK-99に関する論文が2つ、arXivで公開されているが、Kim氏が共著しているのは1本だけで、もう1本は韓国の量子エネルギー研究センターの同僚が執筆しており、そのうちの何人かは2022年8月にLK-99に関する特許も出願しているとのことだ。
どちらの論文も似たような測定結果を示しているが、Kim氏によれば、2番目の論文には「多くの欠陥」があり、彼の許可なくarXivにアップロードされたものだという。その論文では、この研究は「人類にとっての新時代」を切り開くものだと説明されている。
ソーシャルメディア上では、この発見を世代を超えたブレークスルーと称賛するコメンテーターもいたが、超伝導の専門知識を持つ研究者からの圧倒的な反応は、ほとんど懐疑的なものだった。
NewScientist誌が取材したオックスフォード大学のSusannah Speller氏とChris Grovenor氏 ーは、物質が超伝導になると、多くの測定でその明確な兆候が見られるはずだと言う。
特に磁場に対する反応と熱容量と呼ばれる量の2つについては、どちらもデータ上では証明されていないとSpeller氏は言う。「ですから、これらの試料が超伝導であることを示す有力な証拠を得たと言うのは時期尚早です」と彼女は言う。
他の専門家も同様に、この結果と得られたデータには懐疑的であった。LK-99の試料の不完全さと実験手順の誤りによって、結果の一部が説明されてしまうのではないかという懸念を示す者もいた。
Kim氏は、懐疑的な見方があることは承知しているが、この問題に決着をつけるためには、他の研究者が彼のチームの研究を再現してみるべきだと考えているという。この研究結果が査読のある学術誌に掲載されれば、Kim氏はLK-99を自分で作ってテストしたい人をサポートするつもりだという。それまでは、彼と彼の同僚たちは、奇跡の超伝導体と言われるLK-99のサンプルを完成させ、それを量産するための努力を続けるつもりである。
[2023年8月2日10時追記]上記、LK-99について一部の研究機関が再現に成功したとの報告を発している。詳細はこちらの記事をご覧頂きたい。
論文
- arXiv:
参考文献
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